136球目 宅部にマウンドを譲りたくない

 嫌な流れを断ち切るため、グル監は俺をマウンドから降ろした。ピッチャーは宅部やかべさん。取塚とりつかさんの方がいいと思うんだけど。



「わからん。何で、ここで宅部やかべさんなんだ」


取塚とりつかさんの速球と針井はりいのバットが正面衝突したら、ホームランになると思ったんと違う」



 津灯つとうはそう言うと、セカンドの俺を見てばつの悪そうな顔になる。



「ごっ、ごめんね。あたしがちゃんと打球捕ってたら、逆転されんかったのに」


「いや、謝ることないって。あんな打球にさせた俺が悪いんだ。うん」



 津灯つとうにしょんぼり顔は似合わない。元気な彼女が引っ張ってくれないと、逆転勝ちはムリだ。



 俺の一言で、津灯つとうはヒマワリの笑顔を取り戻す。



「みんなー! しまっていくよー!」



 内外野全員が威勢いせいの良い返事で答える。俺もしっかり守るぞ。



 宅部やかべさんの初球は揺れるカーブ(ゲーミング・カーブ)だ。針井はりいは眉を少し動かして見送る。ボールの位置は低い。



「ボール!」



 宅部やかべさんは「チッ」と舌打ちして、マウンドの足場をスパイクでならす。



 あまり不満げな表情を見せると判定が厳しくなるよ、宅部やかべさーん。



 2球目は外角低めアウトローに入るスローカーブ。今度はストライク。



 3球目は縦に落ちるカーブ。針井はりいのバットがハーフスイング寸前で止まってボール。



 カウント2-1なら、次は確実にストライクが取れるボールを投げるはず。小さく曲がるカーブか、普通のストレートのどっちか。



 4球目はインコースにストレート。針井はりいが打ってきた。熱烈ねつれつな打球が俺を襲う。おっ、お助けー!



「アウト! スリーアウトチェンジ!」



 あれ? 頭を守ろうと前に出したグローブの中に、たまたまボールが入っていた。超ラッキーじゃん。



「水宮君、ナイスプレー!」


「ミスター・ミズミヤ、ファンタスティック!」


「ロックンロールだねぇ」


「ありがと!」


「よっ! 男の中の男!」



 皆に褒められた俺は、照れ笑いをグローブで隠す。



(続く)

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