134球目 猛虎は三振しない

 2死満塁で迎える好打者・天塩あまじお城治じょうじ。正直言って、トラ化した彼と目を合わせたくない。どこに投げても食われてしまいそうな威圧感がある。



「ミスター・ミズミヤ、まだボールのパワーはあります」



 マウンドに駆け寄った東代とうだいが力こぶを作る。その力こぶは空気が抜けそうな弱々しさだ。



天塩あまじおを抑える方法あるのか?」

オフコースもちろん。このイニングから、ハンタイダイはフライから、ゴロの打球にチェンジしました。ミスター・アマジオも同じバッティングでしょう」



 外野に飛ばされても、カラス・バスケ・宇宙人が何とかしてくれた。それを見破られた結果、ピッチャー、サード、ファースト強襲の三連続内野安打だ。



 番馬ばんばさんはガチガチに硬まり、真池まいけさんは足が震えている。猛虎もうこの打球に当たったら、ヤバイな。



「ソー、ミス・ツトーかミスター・ヤカベのポジションに打たせます」


「まさか、ど真ん中か?」


「ノー。真ん中低めにストレート、2球続けます。3球目からは、ミスター・アマジオのアクションを見て、シンキング考えるです」


「了解。パスボールに気をつけてな」


ワイルドピッチ暴投はノーサンキューです」



 満塁でランナーが走る恐れがないので、東代とうだいは通常のミットをつけている。俺のボールをらす心配はないだろう。あとは、俺が力まずにど真ん中低めに投げ切れるかだ。



 今までのサウナや砂浜に比べれば、こんなピンチ大したことない! そう思って、闘魂とうこんのストレートを投げる。



「ストライク!」



 猛虎もうこのバットは動かない。森林の王者の眼が俺を睨みつけている。



 打てるもんなら、打ってみろよ。そして、宅部やかべさんか津灯つとうのグローブのわなにかかれ。



 2球目も同じコース。さっきより速い。



「ガアアアア!」



 猛虎もうこ咆哮ほうこうと金属バットの快音。打球は津灯つとうの方へ。やったぞ、ショートライナーだ!



(続く)

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