122球目 カットボールがカットできない

 2回表の攻撃は4番の俺からだ。グローブを外して、自分のバットを取りに行くと、津灯つとうがそっと耳打ちしてくる。



天塩あまじお君のストレートはツーシーム」


「えっ? マジで」



 日本でポピュラーなストレートは、ボールが1回転するとい目が4回現れるフォーシームだ。指にかかるい目の位置を変えると、ボールが2回転するとい目が2回だけ現れるツーシームになる。ツーシームはアメリカで主流だ。



 ツーシームはシュート気味に小さく沈むので、バットの芯を外すのに効果的だ。



「べーコー(ベースコーチ)の火星ひぼし君も見たから間違いないわ。さっきの打席、いつものあたしならヒットにしとるもん」



 宇宙人・火星ひぼしの視力なら間違いないだろう。視力6.0らしいからな……。



「ツーシームとスプリット、まさにメジャー級のピッチャーだね」



 刈摩かるまがスクワットしながら言う。意外とストイックだな、こいつは。



「だから、打席の真ん前に立って、バットに当てていこ、みんな! でも、水宮みずみや君、宅部やかべさん、山科やましなさんは出来るだけ粘り打ちで、お願い!」


「おう!」


「うん」


「任せてくれよ」



 野球経験者で球数を稼げば、失投の確率が上がる。失投を逃さず打ち返せばチャンスが生まれる。俺達が勝つ最善の策だ。



 津灯つとうの指示通り、打席の前方に立つ。バットは短く持って、さぁ来い! って、速すぎる。



「ストライク!」



 俺が半分スイングしたところでボールがミットに入る。これでは、ボールのカット不可能だ。ここは、東代とうだいのバックスイングナシ打法で行くか。



 2球目もツーシーム。えいっ! おっ? バットに当たった! 力のないゴロが三塁線切れてファウル。当てるだけなら、これで十分だ。



 その後もファウルを3球続ける。次第にスピードに慣れてきて、4球目はバットの始動が早くて、一塁線切れのファウルだった。



 そろそろ、元のスイングに戻そう。バットを立てて、いざ5球目!



「ボール」



 スプリットをよく見逃せた。バットのスイング速度に加えて、目も良くなってる?



「ボールツー」



 今度のスプリットはベース手前で落ちてしまった。彼はかなり力んでいる。ストライク取りにきたら、打てそうだ。



 中々、7球目のサインが決まらない。天塩あまじおはタイムを取って、ロージンバックを手に取る。



「コレは?」



 天塩あまじおはキャッチャーが出したサインに深々とうなずく。彼が投げてきたのは速い、ツーシームか。



 バットの芯にジャストミート! のはずが、根元に当たって、どん詰まりのファーストフライになってしまった。



 ベンチに戻ると、刈摩かるまがI字バランスを取りながら言う。



「さっきのはカットボールだね」


「うう。ツーシーム、スプリット、カットボール……。メジャー出身の助っ人かよ」



 カットボールはスライダーより変化量が小さいが、球威があって、相手打者を打ち取りやすい。



 150キロ近いストレート、かなり落ちるスプリット、球威のあるカットボール、宅部やかべさん査定でBランク(S~Gの範囲内)のコントロール。



 こんなメジャーリーグ級のピッチャーを打てる方法はあるのか?



(続く)

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