ゲームセットは聞こえない～超能力野球奇譚～

121球目 トラの体は硬くない

　2番の曹（そう）はインハイのストレートで、センターフライに打ち取れた。

「3番ピッチャー天塩（あまじお）君！」

「打て打てジョージ、KOKOハーマーコー！」

「ジョージ君、打ってねー」

「あたしの所まで飛ばしてぇー！」

　野太い応援に混じって、黄色い声援が聞こえる。天塩（あまじお）は女子人気が高いらしい。女の子の甘い応援があっても、山科（やましな）さんみたいに浮かれず、東代（とうだい）のようなクールさを保っている。

　クールさでは俺も負けられん。

　東代（とうだい）のサインどおり、インコースにストレートを投げる。この重量打線を抑えるなら、気持ちで押さねばならない。

「ファウル！」

　サードの番馬（ばんば）さんが一歩も動けないほどの鋭い打球。ピッチング同様に打球も速いのかよ……。

　さすがにインコースを続けるのは怖い。2～4球目は外のクサい所を突いた。カウントは2-2に。

　5球目は外のスライダー。投球練習から今まで一度も投げてないから、ストレートと思って打ち損じてくれるだろう。

　アウトローから逃げるスライダー。天塩（あまじお）のバットの先っぽに、いや、瞬時に腕が伸びてすくい上げる。

　打球はライト前に落ちる。うーん、シングルヒットだからヨシとするか。

　ネコは体が柔らかいから、トラの天塩（あまじお）も同じく柔軟なバッティングが出来るのだろう。少々厄介なバッターだ。

　4番の針井（はりい）はどんなボールも打ってきた。ストライクゾーンを広めに使って、3-2のフルカウントになる。

　最後は超ゆるゆるチェンジアップだ。針井（はりい）のバットが止まらない。

「ストラックアウト！　スリーアウトチェンジ！」

　フゥー。何とか0点に抑えたが、初回で20球近く投げさせられた。俺のスタミナは7回まで持つかな……。

（続く）