120球目 ハクセキレイは羽ばたかない

 津灯つとうは打席の前に立ち、バットを大きく構える。



 初球は見送ったが、2球目、3球目連続でバットに当てる。



「いいぞー、津灯つとう! センターへ打ち返せー!」


「打て打て、津灯つとう! 打て打て、津灯つとう!」



 応援団の声量が大きすぎて、俺の言葉がかき消される。この応援に相手がビビってくれたらいいけどなぁ。



 しかし、相手投手の天塩あまじお威風堂々いふうどうどうとしている。丸顔と赤縁のメガネで優しそうに見えるが、その瞳は獲物を狙う猛獣だ。



 4球目もストレート。津灯つとうのバットが快音を響かせる。レフト前ヒットかと思いきや、サードゴロだった。



「スリーアウト、チェンジ!」



 俺はヘルメットを脱いでグローブをつける。次は阪体はんたい大の打線を抑えなきゃいけない。



「1番ショート辺田へんだ君」



 先頭打者は白と黒の鳥人に変身すると、テント下のウグイス嬢に向かって叫ぶ。



輝石きせきちゃん! 今日、俺が3本ヒット打ったら、デートしてくれ!」



 ウグイス嬢は赤面して顔を隠す。こんな大勢の前で告白するなんて、メンタル強すぎんだろ。



 辺田へんだはしきりに尾羽をピコピコ振っている。目ざわりだな。その尾羽が止まるぐらいのボールを投げてやれ。



 東代のサインはチェンジアップ。初球はストレートが定石だが、打ちたがりの相手の出鼻、出口ばしをくじくってか。



「ピー! えっ、おそっ!」



 バットの出が速すぎてタイミング合わず。ワンストライク、いただき。



「このヘナチョコがぁー! もっと速いボール投げんかぁ!」



 鳥人って口うるさいの多いから苦手。味方の烏丸さんは半鳥人ハーフ・バードメンで、そこまでうるさくないからいいけど。



 2球目はお望みのストレートをアウトコースへ。打ち気にはやる辺田へんだは、「速すぎるっピー!」と叫んでセカンドゴロに倒れた。



「フゥー。まずワンナウト」



 辺田へんだは俺ぐらいの身長だったが、2番のそう、3番の天塩あまじお、4番の針井はりいいずれも山科やましなさんクラスの長身だ。3人とも腕が太いので、パワーヒッターだろう。



 絶対に失投が許されない。厳しいコースを突くんだ。



(続く)

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