117球目 絶対に負けられない

 試合開始まであと5分なのに、千井田ちいださんが未だに来ない。



「遅いなぁ。まだ寝てんのか?」


「LANEのメッセージにも既読つかへんから、恐らく……」



 津灯つとうがうつむいてLANEの画面をじっと見る。貴重な代走要員がいないと、実に困る。



「お待たせしたやーん。ごめん、ごめん」


「子猫ちゃん、遅すぎ! 時間は、ゲッ、刈摩かるま?」



 千井田ちいださんが刈摩かるまと召し使いを連れてやって来た。この前、不快指数MAXをもたらした奴を見て、皆の眉間にしわが寄る。



「てめぇ、俺様にぶっ倒されに来たんか?」



 番馬ばんばさんの腕が電柱のごとく太くなる。



「この前は言い過ぎたよ、申し訳ない。そのおわびに千井田ちいださんを送ってあげたのさ」


「せやで。しかも応援団連れて来るらしいし」


「応援団?」



 俺達が外野フェンスを見れば、達筆で浜甲はまこうと書かれたシャツを着た人々がぞろぞろ集まって来る。ボロボロの学生帽をかぶった男が、指揮者のように大きく腕を振る。



「さぁ! 皆で浜甲はまこう学園を応援だ! フレ―フレー」


「フレ―フレーハマコー! フレーフレーハマコー!」



 野外ライブの爆音級の声量だ。彼らは両手を後ろに回して直立不動で叫ぶ。まるで軍隊だ。



「私が出来るのは、このぐらいだ。精々頑張りたまえ」


「あっ、ありがとう、刈摩かるま君。私達、頑張るわ」



 グル監が頭を下げれば、他の皆もつられて下げる。



「そろそろプレイボールですよー」



 球審きゅうしんが俺達に声をかける。



「じゃ、みんな行こか」


「っしゃあ!」


「ラジャー」


「了解」



 応援団のおかげで、俺達の体は燃え上がっている。この試合、絶対に勝つぞ!



(続く)

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