113球目 インコースを攻めなきゃ勝てない

 今日の対戦相手は、天王寺てんのうじズーファーターズだ。今年の春の大阪大会王者だ。



 ズーファイターズの選手は高校生にひけを取らない体格をしており、打球がかなり速い。



 先頭打者をショートライナー、2番打者をピッチャーフライに抑えたが、3番・4番に連続ヒットを喰らう。



「タイム、タイム!」



 津灯つとうがタイムをかけて、マウンドに来る。東代とうだいを手招きする。



「この場面、三振で切り抜けたいから、東代とうだい君はインコースをガンガン要求して」


バットしかし、パワーヒッターぞろいですよ」


津灯つとうの言う通りにしようぜ、ミスター・トーダイ」



 俺と津灯つとうはウインクをかわす。東代とうだいはぶぜんとした表情でOKと言い、ホームへ戻る。



 5番打者は超能力を発動し、4本の手でバットを持つ。パワーはありそうだが、当たらなきゃ絵に描いた餅だ。



 初球のチェンジアップは見逃し。ピクリともしなかったので、狙い球じゃないのだろう。



 東代とうだいのサインはインコースのストレート。



 俺は瞬時にうなずく。



 投じたボールはシュート回転して、打者の胸元付近のボール球になってしまう。



 カウントは1-1。東代とうだいのアウトコースのスライダーのサインにうなずかない。



 チェンジアップは嫌、内角低めインローのストレートはヨシ。



 今度はキッチリ入った。相手の目は真ん丸になっている。



 ラストもインコースのストレートでいく。



 内角高めインハイのストレートにビビって、バッターがのけぞる。これは入ってるぜ、中坊よ。



「ストラックバッターアウト!」



 高校生の強気のピッチングは、中学生のバットを沈黙させるのだ。



※※※



 その後、俺がズーファイターズ打線を7回まで0点に抑えた。最終回に2ランホームランを打って、サヨナラ勝ちした。



「勝った、勝ったぁ!」


水宮みずみや君サイコー!」



 皆が俺をパワー全開の拍手で迎える。烏丸からすまさんが津灯つとうと俺を胴上げしようと提案したが、恥ずかしいので断った。



「なんか、優勝したみたいな大騒ぎだな」


水宮みずみや君やあたしは勝利に慣れとるけど、他の子はほぼ初めてやもん。これで、来週の試合は大丈夫そうやね」


津灯つとうって、中学の時も野球やってたのか?」



 彼女は俺の質問に答えず、手をパンパン叩いて皆に声をかける。



「みんなぁ! 試合後の整列するよー!」



 彼女の中学時代は黒歴史なのか? まぁ、いずれはわかるだろう。



 その時まで、チームがずっと勝ち続けられるよう、俺は精一杯投げるだけだ。



(続く)

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