111球目 トラは食欲をガマンできない

 阪神はんしん体育大学付属高校は、隅々まで掃除されていて、とても清潔なイメージだ。うちの高校は端っこの方に落書きが残っているから、こういうところは見習いたい。



 グランウンドでは、屈強な野球部員が野太い声を上げてキャッチボールをしている。番馬ばんばさん山科やましなさんがこの中に混じったら埋もれる程、みんなガタイが良い。



「この木にとまって、よく観察するカァ」



 よくしげった葉の間に隠れて、本物の鳥のように鳴きながら、選手の動きを観察する。



 あの選手、千井田ちいださんクラスの足だな。おっ、あの選手は番馬ばんばさん以上のパワーがある。あそこの選手は刈摩かるま並みのストレートを投げてる。



 ちっともマイナス要素が見つからないので、俺達は鳴くのをやめて羽づくろいをし始める。



 すると、野球ボールが俺達の木に飛び込んでくる。とっさによけてなかったら即死だった。あぶねぇなぁ。



「うわぁ! 変なトコ投げちゃった! ソーリーソーリー」


「ジョージィ! さっさと捕ってこーい!」



 ジョージと呼ばれた子は高身長で、金髪碧眼へきがんでメガネをかけている。あのメガネを取れば、さぞかし美しい顔が現れるに違いない。



 彼が木に登ってボールを探しにくる。って、木登りのスピード速くないか?



「ボールどこかな? あっ!」



 俺達とジョージの目が合う。彼の目が細長いネコの目になり、顔中に黄色く黒い縦じまの獣毛が生えだす。彼は低くうなって牙をむき出す。



「にっ、逃げろカァ!」



 烏丸からすまガラスが真っ先に飛び立つ。続いて、津灯つとうスズメと東代とうだいメジロが。俺は足がすくんで動けない。



「何やってんの?」


「ハリーアップ!」



 トラの口の中が、ブラックホールのごとく俺の体を吸い込もうとしている。もうダメだ、おしまいだ。



「おい、ジョージ! 何やってんだ? 遅いぞ!」



 チームメイトの呼びかけで、ジョージ君の瞳が人間時に戻る。彼は「おどかしてゴメン」と言って、ボールをくわえて、スルスルと木を降りていく。



 虎化する超能力者だったが、根はいい奴かもしれない。





 その後、俺達は偵察ていさつを再開し、1時間ほど粘ったものの、収穫ナシだった。



(続く)









 公園に戻れば、中身が鳥の俺達が砂場で砂浴び、ブランコ乗り、すべり台ループ、1人シーソーで遊んでいた。子ども達から好奇の目で見られている。


 うわぁ、超絶はずかしいぞ……。

(続く)

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