2回裏 浜甲野球部存続をかけた試合プレイボール!!

110球目 鳥になって飛ぶのは容易じゃない

 大阪府の藩鉄ばんてつ福島ふくしま駅から歩いて10分の場所に、阪神はんしん体育大学付属高校がある。この高校の野球部は、夏の甲子園に9回出場し、全国優勝1回の強豪校だ。



 そんな高校と野球部に存続をかけた試合をやるなんて、無理ゲーすぎる。しかし、津灯つとうはあきらめない。



「どんな強いチームにも必ず弱点がある! そこを突けば勝てるよ! そのためには偵察ていさつ!」



 というワケで、俺と津灯つとう東代とうだい烏丸からすまさん4人組は、阪体大はんたいだい付属前の公園にいる。



「どうやって、阪体大はんたいだい付属のグラウンドに忍び込むんだ?」


「ハンタイダイのコスチュームを着るんでしょうか?」


「もっとバレにくい方法があるんですよね、烏丸からすま先輩?」


「うっ、うん。この子達を使うんや」



 烏丸からすまさんが風呂敷を外せば、カラスとスズメとメジロと白黒の鳥が大きな鳥かごの中にいる。チュンチュンピーピー小さく鳴いている。



「鳥を使うのか?」



 鳥たちが目撃したことを烏丸からすまさんが翻訳するのか? それなら、俺達は別にいらないよな。



「小型カメラをセットしますか?」


「いいや。俺っち達が鳥になるんや」



 烏丸からすまさんは白ご飯に卵をかけると美味しいと言わんばかりに、さらっと話した。



「えぇ? それ、どういうこと?」


「この鳥たちと魂を入れ替えたら、鳥になってあの高校に忍び込める。小型カメラを頭に載せる案も考えとったけど、ちゃんと撮れるかどうか不安。それやったら、自分らが鳥の目で見た方が確実やと思うて」



 TV番組で、人間と動物の魂を入れ替える超能力を見たが、正直ウソ臭いと思っていた。だが、実際にそれをやる人物が身近にいるとはなぁ。



「俺っちはカラス、津灯つとうちゃんはスズメ、東代とうだい君はメジロ、水宮みずみや君はシジュウカラの頭にふれてな。目を閉じて、空を飛ぶことだけ考えて」



 言われたとおり、ベンチ上のシジュウカラの黒帽くろぼう頭にふれる。空を自由に飛べるのは気持ちいだろうな。体中に鳥肌が出てゾワゾワするが、余計なことは考えるな!



「ハイ、目を開けてカァ!」



 目を開ければ、烏丸からすまガラスの巨大口ばしが視界に入ってくる。こわっ!



東代とうだい君、かわいいチュン」


「ホワイトアイは、私のイメージにピッタリですチー」



 つぶらな瞳の津灯つとうスズメと白縁のメガネをかけているような東代とうだいメジロが、愛くるしい声で喋る。



「これが鳥か。何か、いつもより世界がキレイに見えるツピー」



 自然と語尾に鳥の鳴き声がつく。とても恥ずかしい。



「人間の姿でおとなしくしてくれカァ」



 4人は黙ってうなずく。目の前に自分の顔がいるのは、かなり奇妙な光景だ。



「それじゃ、阪体大はんたいだいのグラウンド目指して出発カァ!」



 烏丸ガラスが勢いよく羽ばたくが、俺達はベンチ上でとまどう。



「あれ? どうしたカァ?」



 烏丸からすまガラスが戻ってくる。



「飛び方がわからないチュン」


「羽を広げて、上下に動かさせば飛べるカァ。人の頭でわからなくなっても、鳥の体が覚えとるカァ」



 烏丸からすまガラスのアドバイス通りに飛んでみる。おぉ浮いた、前に進める、飛んでる!



 飛べることは嬉しいが、かなりキツい! 水泳のバタフライをやっているかのように、背筋が悲鳴を上げる。毎日こんな飛行をしているから、鳥って意外とマッチョなんだな。



(続く)


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