107球目 黒塗りの高級車に乗りたくない

 良徳りょうとく学園VS白浜しらはまは、最終回に良徳りょうとく打線が1点を返すものの、白浜しらはまが6-4で逃げ切った。刈摩かるまは2回3分の1を投げ、4奪三振だつさんしんの好投を見せた。ムカつく。



 俺は刈摩かるまに直接聞きたいことがあるので、1人だけ野球場近くに残る。辺りを探せば、黒塗りの細長い高級車を発見した。こんな車に乗るのはあいつだけだ。



 少し離れて待っていれば、良徳りょうとくのユニフォーム姿の少年が車に近づく。



「おい、刈摩かるま! ちょっと聞きたいことが」


「私の追っかけかい?」



 刈摩かるまは冷ややかな笑みを浮かべる。人を見下すところが、某夫人によく似ている。



「ちげーよ。7回の連続四球フォアボールの件で確かめたいことがあってさ。あれ、ワザとだろ?」



 彼はあごでしゃくって、「入りたまえ」とドアを開ける。



「君の自宅まで送っていくよ」


「いや、そこまでしなくていいから」


「なぁに、昨日のピッチングマシンの設計図のお礼さ」


「すぐに済む話だから」


「こっちも話がしたかったんだ」


「しゃあない。わかったよ」



 彼の強引な押しに負けて、車内に入る。霊柩車れいきゅうしゃより長い車内には、ミュージシャンの室内のごとく、大量のレコードと古めかしいレコードプレイヤーがあった。



「BGMはそうだ……、「オーバー・ザ・レインボー」にしよう」



 ゆるやかに流れる雲のような音楽をバックに、彼が問いかける。



「どうして、私が故意に四球フォアボールを出したと思ったのかな?」



 刈摩かるまがレモンの切り身つきの紅茶を出してくる。この花柄のティーカップ、とても高そうだな。



「うーん。1死3塁なら、ヒットはもちろん、犠牲フライやスクイズなんかで1点失うだろ。でも、満塁にしたら、ランナーに直接タッチしなくても、ベースを踏むだけでアウトに出来る。だから、満塁策を取ったのかなって。あと笑ってたから」



 刈摩かるまは手を交差させる上品な拍手をする。



「素晴らしい洞察力どうさつりょくだ。確かに、私はアウトが取りやすいよう、四球フォアボールを出したよ。審判のストライクゾーンを確認したかったと答えれば、100点満点だったけどね」



 四球フォアボールを出してまでストライクゾーンの確認て、よほどコントロールに自信がなきゃ出来ない芸当だ。



「君がオズの魔法使のパーティーのような貧弱なチームにいるのは、もったいないと思うよ。うちの高校に転校しないか?」



(夏大予選まであと47日)

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