106球目 パンダは初球に食いつかない

 良徳りょうとく学園VS白浜しらはまは、7回表に白浜しらはま打線が爆発して3点をもぎ取った。良徳りょうとくは3-6のビハインド、1死3塁のピンチに、1年生の刈摩かるまをマウンド上に送る。



「めっちゃ手ぇ抜いて投げてやがる」



 俺は刈摩かるまのMAXを目撃しただけに、キャッチボール程度の投球練習が許せない。もっとマジメに投げろよ。彼は汗を高級ハンカチで拭い、余裕しゃくしゃくだ。



水宮みずみや君はあの刈摩かるま君と対戦したことあるけど、どんなピッチャーだったか覚えとる?」


「よくヒット打たれてたし、フォアボール出してたイメージあるなぁ。でも、ピンチはしっかり抑えてたな」


「シラハマはヒットをコツコツ重ねるナイスチームです。カルマのプアー貧弱なボールをヒットしてほしいです」



 刈摩かるまアンチの東代とうだいは、白浜しらはま高校の校歌を歌ってエールを送る。1度聴いただけで覚えるなんて、さすがIQ156だ。



 投球練習が終わり、刈摩かるまは球筋の見えにくい独特なフォームで投げる。しかし、コーナーを突いたボールが、ことごとくボール判定を受ける。二者連続四球フォアボールで、満塁の大ピンチを作ってしまう。



「ナイスコントロール! ソー、グランドスラム満塁ホームランを打たれてください!」


「よっしゃあ! 半田はんだぁ、良徳のヘボピーを殺せぇ!」



 東代とうだいが丁寧に、番馬ばんばさんが口汚く野次を飛ばす。



 刈摩かるまは首筋をハンカチでぬぐい、まだ笑顔を見せる。



 白浜しろはまの4番打者の半田はんだは、パンダ化の超能力者だ。今日の試合ではフェンス直撃のツーベースヒットを打っており、パンチ力がある。



 そんな強打者相手に、刈摩かるまが投じたのはアイアンボールだ。



「ストライクワン!」



 俺なら初球から打ってしまうが、半田はんだは堂々と見送る。パンダのつぶらな瞳が刈摩かるまを見つめる。その甘いマスクに油断して、たくさんのピッチャーが打たれてきたのだろう。



 刈摩かるまは超能力を解除せず、2球目もアイアンボールだ。半田はんだ激振げきしん。鉄球がボーリングのように、ピッチャーの横を勢いよく転がる。これはヒットになるぞ。



 しかし、刈摩かるまが指をパチンと鳴らせば、鉄球が野球の硬球へ戻る。彼が死んだボールをつかみ、ホームへ送球。三塁ランナーはアウト。キャッチャーが一塁へ送球し、バッターアウト。



 あんな簡単に超能力を解除できるなんて、チート過ぎる。ますますイライラさせるなぁ。



「オーウ! ファッキン!」


「アホパンダ! 動物園帰れ!」



 東代とうだい番馬ばんばさんは真っ赤な顔で叫ぶ。2人ともすっかり野球狂に出来上がっていた。



(夏大予選まであと47日)

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