105球目 甲子園出場できるのは野球部だけじゃない

 今年の高校野球春の近畿きんき大会は、兵庫県で開催されている。春の大会は、夏大予選のシード校を決める大会だ。俺達は野球部結成したばかりなので、参加しなかった。



 開催地の兵庫県3校と大阪・京都・滋賀・奈良・和歌山の優勝校、合わせて計8校が近畿ナンバーワンを巡って戦う。



 ここ塚口つかぐちサンシャイン球場では、兵庫2位の良徳りょうとく学園と和歌山1位の白浜しらはま高校が対戦している。



「このリョ―トクは、どんなハイスクールですか?」



 東代とうだいが俺に尋ねてくる。彼はメモ帳を持って、勉強の準備万端だ。



良徳りょうとく学園は男子校で、野球やラグビーが強いな。30年前ぐらいに全国優勝したっけ?」


「そう。あの時、ワシが死んでへんかったら、浜甲はまこうが全国優勝しとったんや!」



 取塚とりつかさんの鼻の穴から夕川さんが出てきて、猛烈に拳を震わせている。



「今年のセンバツはベスト8だから、かなりの強敵だな」


刈摩かるま君の財力で、練習設備がパワーアップしてるかも……」



 津灯つとうの言葉で、皆のテンションがダダ下がりだ。彼女は慌てて笑顔を作って、別の話題に切り替える。



「えっと、そうそう! この中で、小連体か中連体に出た人いますか?」



 2年生・3年生全員が手を挙げる。



「私ら尼崎あまがさきやから、出る資格なかったもんね」


「そうそう。西宮にしのみや市民はズルいわぁ」



 津灯つとう本賀ほんがが顔を合わせて、口をとがらせる。



「なぁ、津灯つとう。そのショーレンタイって何?」


「正式名称は小学校連合体育大会、中学校連合体育大会で、西宮にしのみや市内の小中学生が甲子園球場に集まって、運動会的なことするイベントやね」


「へぇー。そんなイベントあるのか。簡単に甲子園出られてうらやましいな」


「小連体・中連体がダメでも、指定された学校の合唱部やブラバンに入って、春か夏の甲子園に出る方法もあるよ」


「代表校のプラカード持つために、一番札高校に入る手もあるよね」


「放送コンテスト優勝して、開会式の放送する手もあるやん」



 女子3人組が立て続けに甲子園出場の裏技を教えてくれる。全国の球児の聖地を踏めるのは、野球部だけじゃないんだな。



「それなら、コーラス部にチェンジして、甲子園出場するってのは?」


「デヴィッドさん、それはダメです」



 俺と津灯つとうは同時に×印を作る。真池まいけさんは肩を落とす。



「君達、ついに刈摩かるまが登板するよ」



 山科やましなさんが指差す先のマウンド上で、刈摩かるまが先発投手からボールを受け取っている。奴の本気のピッチングが明らかになる。



(夏大予選まであと47日)

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