99球目 個人練習はおろそかにしない(取塚の場合)
「準備はいいか?」
「はじめっ!」
祖父の合図とともに、礼央は祖父の袖を引っ張る。しかし、
「どうした? かなり弱なったな、礼央?」
「ううう。やっぱ、じいちゃん、強い……」
「そりゃ、昔の県大会王者やからな! ガハハハハハ!」
祖父は豪快に笑って、孫の帯を締め付ける。
「野球辞めて、柔道戻る気ぃなったか?」
「まだムリやで、じいちゃん。甲子園出ぇへんと」
彼は甲子園出場を生前に果たせなかった幽霊・
「まったく!
祖父は孫の押さえ込みをやめて、のっそりと立ち上がる。
「ごめんね、じいちゃん。せやから、もっと体力つけて、長いイニング投げられるようになりたい。甲子園出場の確率アップさせたいから」
「甲子園か。俺に勝てないお前が行けるワケないやろ」
再び組み合って、互いに技をかけあう。
「ハァハァ。
「断る! ワイは野球以外やらん!」
白煙状の
「幽霊と相談してもムダや、
「勝利の意志? 何それ?」
「相手をこの技で倒すという強い意志を持つことや。どうせ、お前のことやから、じいちゃんにかなわないとでも思っとるんと違うか?」
「甲子園出たかったら、少しでも勝つ意思を見せい。次が最後にするで」
畳に背中を強くぶつけた祖父は、引きつった顔で笑いながら、震える親指を立てる。
「勝利の意志か。じいちゃん、参考になったよ。今までありがとう」
「おっ、俺は死んどらんぞ!」
祖父は唾を飛ばして叫んだ。
(夏大予選まであと55日)
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