96球目 個人練習はおろそかにしない(烏丸の場合)
「今日の試合の成績は?」
「はい。4打数1安打やった」
「どんなヒットや?」
「ライト前のポテンヒット」
「
「ええと、ホームラン性の打球を捕って褒められた」
父はため息を吐いて腕をほどき、右手で息子の額にデコピンする。
「いっ、いてぇ!」
「愚か者! 毎回のように、彼女を連れてくると言ってるが、有言不実行やないかい! こうなったら、お見合いで……」
「あぁ! 大丈夫、大丈夫! 俺っちには秘策あるから」
「秘策? くだらんかったら、即刻、野球部を辞めさすぞ」
「2か月後の予選で、俺っちが打ちまくって、甲子園に連れて行くんや。そしたら、
彼の脳裏に、とあるシーンが浮かぶ。
3点差の9回裏
「
「よっしゃあ! 絶対に打ったる」
相手投手はストレートを投げる。150キロ近い速球でも、
「入れ、入れー!」
レフトフライかと思われたが、突風が吹いてスタンドに入った。甲子園出場を決める起死回生の逆転サヨナラ満塁ホームランだ。
「やったぁ! 勝ったぁ!」
「ありがとう、烏丸さん」
ホームに
「エヘ、エヘヘヘヘヘ」
「何を笑っとるかぁ!」
父が木の杖で彼の右肩を叩く。肩の血管がプツンと切れたような痛みが走り、彼は
「ギャアアアアア! 俺っちの肩がつぶれたら、どうすんだよぉ」
「アホか。声が出てる内は大したことないわい」
父はあきれ顔をしながら、杖の先を
「細長い杖でも、スナップを利かせたら、威力大きくなるんやなぁ。ん? 細長い棒……」
彼の頭の中で豆電球が点灯する。
「いつも使っとる妖怪退治の杖みたいな、細長バットやったら、俺っちの打率アップするかも!」
彼は自分専用の杖を持ってきて、野球のスイングをし始める。軽くて振りやすいし、メジャーリーガー顔負けの速度だ。
「よーし!
「野球のバットに細長くて軽いのは使えるんか?」
「あっ、そっか。調べとこ」
彼が金属バットの規定をスマホで検索すれば、バットの直径は67ミリ未満、重さは900グラム以上と出てくる。
「ぐうう、900グラム以上……。そういや、
今日の試合では、
「へー。バットにもいろんな種類が、何々、竹バット? こっ、これやぁ!」
竹バットは木製バットより折れにくく、ボールをバットの芯に当てる練習に使えるそうだ。スズメ達との交流に竹林をよく使うので、
「竹バットを振って、3割、いや、6割バッターになるでぇ!」
息子のやる気を目の当たりにした父は、唇を丸めて軽くうなずく。
この後、
(夏大予選まであと61日)
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