93球目 個人練習はおろそかにしない(千井田の場合)
「くそっ! 天気予報はくもりやったのに!」
彼女はテディベアの腹にチーターパンチを繰り出す。
「姉貴、早く着替えろや。風邪ひくよ。って、姉貴はアホやから、風邪ひかへんか」
弟の
「何やとぉ、こんのクソガキッ!」
「ハァハァ。あんた、逃げるの上手いやん」
「ヘヘン。オレはサッカーのドリブル得意やからね。と言っても、その輝きは3分間だけやけど」
「あぁ。あんたもあたいと一緒か」
「姉貴、ホンマもったいないわ。オリンピック級の足持ってたのになぁ」
「いや。あたいの足はメジャーリーグやん」
彼女は
100m走の途中でウサギのぬいぐるみを投げられ、チーター化した自分を
「メジャーって160試合ぐらいあるやろ? やっぱ、もっとスタミナつけへんとキツイって」
「スタミナねぇ。チーターに持久力があったら……」
「馬ぐらいのスタミナとチーターの足が合体したら、最強やんね」
瞬発力と持久力がある動物、彼女の頭の中に色々な動物が浮かんでは消える。その中で、犬だけがワンワン吠えて残っていた。
「せや! 犬やん! あたいは犬になる!」
「あっ、姉貴ぃ?」
彼女はチーター姿のまま、四つ足で歩きまわる。テーブルの脚やお菓子の匂いを嗅ぐ。ダンベルを骨っこ代わりに噛みまくる。
「パイ焼けたでー」
祖母が持ってきたパイは、テーブルに頭だけ乗せ、道具を使わずに犬食いし始める。
「こらっ、
「グルルルルル」
「姉貴は犬になりきるって」
「そうなんやね。ほな、今日はカレーライスやけど、
彼女が犬になりきったのは、わずか30分だった。
(夏大予選まであと70日)
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