90球目 高校生とは試合をしない

 1週間の特訓の成果を発揮するため、日曜日は練習試合をやることになった。対戦相手が来るまで、守備練習ざんまいだ。



水宮みずみや君、対戦相手はどこがいい?」



 俺は津灯つとうゆるいゴロを捕ってファーストへ投げる。投げた後に答え始める。



「そうだなー。やっおぱ、センバツベスト8の良徳りょうとく学園かな」


「俺様は臨港りんこう学園がええわ! あそこの奴らと大ゲンカやったことあっから!」



 番馬ばんばさんは腹をクッション代わりに打球を捕る。ファーストへ火が出るような送球だ。真池まいけさんは馬のような悲鳴を上げながら捕る。



「オレ的には、ブラバンが強い宝塚たからづか華楽かがくがええな。キレイな子多いし」



 真池まいけさんの送球を捕った東代とうだいは、モノクルを光らせながらしゃべる。



「私は、神戸ポートタウン大付属とゲームしたいです。あのハイスクールのデータベースボールに勝ってみたいです」


「なるほど。ポー大は2年連続で夏の甲子園行ってるから、強敵中の強敵やもんね。宅部やかべさんはどこー?」



 津灯つとうの地をうような猛ゴロを宅部やかべさんは止める。彼は一言、「昇陽しょうよう姫路ひめじ」と答える。数年おきぐらいに甲子園に出る強豪校だ。



「皆さん、対戦相手が来ましたよー」



 グル監がパンパンと手を叩けば、守備練習は終わり。出入り口の対戦相手を見る。俺より小さい野球少年がぞろぞろ入って来る。中には宅部やかべさんより小さい人もいる。ユニフォームの文字は英語の筆記体で読めない。



「いやぁ、高校のグラウンド借りられるなんて、夢のようですわぁ」



 七福神の中にいそうな、ツルッパゲで顔の長い監督が、グル監に何度も頭を下げる。



「いえいえ、こちらこそ。うちみたいなチームと試合をしていただけて」



 2人があいさつを交わした後、対戦相手が守りについてノックを始める。俺達はベンチに戻って、念入りにストレッチだ。



「監督。今日の対戦相手はどこの高校ですか?」


「高校じゃなくて、中学の硬式野球チームよ。垂尾たるおレオポンズ、知ってるかしら?」


「えー? 中学ぅ?」



 てっきり強豪校の2軍と試合できると思っていただけに、これじゃあ拍子抜けだ。



水宮みずみや君、いいかしら? うちみたいな出来たばかりの野球部とマジメに試合してくれる高校は皆無だわ。手抜きされて、全然練習にならへん。それやったら、本気を出してくれる中学野球チームと試合した方がようない?」


「あー。一理ありますね」



 手抜きの高校生より全力の中学生か。花丸はなまる戦のようなボロ負けよりみも、接戦になる方が今後のモチベにもつながりそうだな。



「水宮君、今日は勝とうねっ!」



 津灯つとうの太陽の微笑みが、俺を勇気づける。よーし、今日は相手に1点も与えねぇぞ!



「よしっ! 頑張る!」



 シャドウ・ピッチングで腕の振りを確かめながら、闘志の炎を点火する。



(夏大予選まであと75日)

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