86球目 特訓は1日で終わらない(水曜日)

 俺たち野球部はなぜかスイミングスクール施設の温水プールに集まっている。



「えー、今日は立ち泳ぎしながら、キャッチボールよ」



 アロハシャツのグル監は、大人の魅力をムンムン放っている。シャツを脱いだら、美しい腰のくびれが出てきそう。



「監督。キャッチボールの許可はいただいてるんですか?」



 津灯つとうはスク水ながらも、漫画雑誌の巻頭グラビア女子風のボディーラインが見えて可愛い。小ぶりの胸と対照的な大きい桃尻が、俺達の野獣を目覚めさせる。



「もちろんよ。今日はスイミングスクールがお休みやから、借りてるの。来週からずっと、水曜は水上特訓ね」


「へー。水泳なのに水曜休みって、変わっとるやん」



 千井田ちいださんはピッチリしたスク水のおかげで、スラッとした体型が映えている。筋肉質の両脚は、足フェチの宅部やかべさんを刺激したみたいで、鼻の穴にティッシュを詰め込んでいる。



「週の谷間は休みたくなるもんね」



 本賀ほんがはずんぐりむっくりな体だが、胸のふくらみがハリウッドのセレブ女優で、実に魅惑的だ。巨乳好きの真池まいけさんは必死に片手で顔の半分を隠しながら、「ダブルビーチボール、ボーイミーツガール」と意味深な発言をしている。



「さぁさぁ、皆さん。両サイドに分かれてね」



 俺達は二手に分かれて、プールの中へ入って行く。俺のキャッチボール相手は番馬ばんばさんだ。体が大きいから、多少の暴投でも捕ってくれる。ありがたい。



「ボールを水中に落としたら、泳いで拾いに行くこと。後ろにそらしたら、上がって捕りに行ってよ。では、スタート」



 彼女の笛の合図で、俺達は水上キャッチボールを始める。足が地面につかないから、上半身の力が頼りだ。俺や山科やましなさん、津灯つとう以外は、中々25メートル投げられずに苦戦する。



「ハァハァ。これじゃ、水泳部と変わらへんやん」



 チーター化した千井田ちいださんが犬かきしながら、浮いたボールを口でくわえる。



「ハハッ。子猫ちゃんは、僕の教科書に載せたくなる華麗かれいなフォームをよく見たまえ」



 山科やましなさんの体は、ギリシア彫刻のように洗練された美肌で筋肉質だ。俺の理想体型で、つい見とれてしまう。



「おい、水宮みずみやぁ! 早よ投げんかい!」


「はいっ! すみませーん!」



 番馬ばんばさんの胸はジャングルのごとく毛が生え、絵本に出てくる鬼そのものだ。俺のクソ親父も、番馬さんみたいにゴワゴワ胸毛だったな。



 ということは、将来の俺の姿って……。



(夏大予選まであと79日)

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