76球目 7回のマウンドに上がれない

 野球では7回をラッキーセブンと言う。ピッチャーが疲れてきて、チャンスが増えることから、この名前がついたらしい。



 7回表の浜甲はまこうのマウンドには、取塚とりつかさんが上がっていた。俺は球威きゅういが無くなってきたということで、ファーストでお休み。まだ100球に達してないから、もう少し投げたかったなぁ。



 スコアボードを見れば、花丸はなまる高校が8-1でリードしている。真池まいけさんのエラーを除いても、今日の俺はホームランやツーベースヒットを打たれている。完敗だ。



 取塚とりつかさん(夕川ゆうかわ)の躍動感はすごい。相手の椎葉しいばを上回る140キロを出し、インコース厳しくストレートで攻めれば、外のスローカーブで空振りを取る。俺もあんなピッチングしたいよ。



「見たか、水宮みずみや! これがエースのピッチングや! よく勉強せぇよ」


「はい、先輩」



 俺は帽子を取って敬礼する。宅部やかべさんが小声で「軍隊?」とつぶやく。



 夕川ゆうかわさんは浜甲はまこうを県大決勝まで導いた方だから、説得力が十分だ。先頭の本村もとむらを空振り三振、4回グランドスラム(満塁ホームラン)の椎葉しいばもスローカーブ、スローカーブ、ストレートの三振に抑えた。



※※※



 花丸はなまるベンチは取塚とりつかのピッチングに動揺する。



「何で、こんないいピーが控えなんタイ? 俺なら絶対に先発させるバイ」



 吉田よしだ監督は首をかしげて貧乏ゆすりをし始める。



「きっと、スタミナがないんですよ。ベンチ前の投球練習もキャッチボール程度でしたから」



 草能くさのの推理を聞いた監督はうなずき、貧乏ゆすりをやめる。



「確かに。見たところ、線が細くて、ケガしやすい感じタイ。奥永おくなが、ねちこくいけー、ねちこく!」



 7番の奥永おくながは2ストライク後、3球連続でファウルにする。取塚とりつかは根負けして、スローカーブのすっぽ抜けを奥永おくながの背中に当ててしまった。



「デッドボール!」


奥永おくなが、さっすがー!」



 椎葉しいばは拍手して女房を称える。



「クサノン、あのピーのオーラ見るタイ」


「うん? あれ? 白いのと黒いの2つあるよ」



 2つのオーラは、取塚とりつか夕川ゆうかわの幽霊が憑いている証拠だ。しかし、草能くさの椎葉しいばはその真実にたどり着けない。



 8番の井ノ上いのうえの打球はレフトへ飛ぶ。烏丸からすまが両翼を使い、卵を温める親鳥のようにつかむ。花丸はなまるの7回表の攻撃は0点だった。



(続く)

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