74球目 外野フライに追いつけない

 レフトの烏丸からすまはとても退屈で、フェンスに来るスズメ達と会話していた。



「チュンチュンチュチュチュンチュン(ヒヨドリのサブローがえさ場どいてくれない、マジウザイ)」


「何て悪い鳥や。一回こらしめんと」



 烏丸からすまの妖怪・悪霊あくりょう退治は月に1回あるぐらいで、ほとんどは野鳥の問題を解決していた。



「ヂヂヂヂヂ(ボールが飛んだ)」


「えっ? ホンマに?」



 烏丸からすまは振り向き、ボールの行方を追う。打球は、フェンスピッタリに張り付くライトの火星ひぼしの方へ。火星ひぼしは数歩歩いてボールをキャッチする。ライトフライで、三塁ランナーがホームへ向かう。



「カー、ライトかー。外野って、全くボール来ないなー」



 烏丸からすまは口ばしの下をポリポリかいて不満げな顔だ。彼は愛しの津灯つとうにカッコいい所を見せようと、家でフライを捕る練習をしてきた。それが発揮できなくてイライラがつのる。



 次のバッターは、ストレートをライト線にファウル、スライダーを空振りで、レフトに引っ張れそうにない。烏丸からすまはベンチに戻ろうと、少しずつ前進する。



「ヂヂヂヂヂ(ボールが来る)」


「レフト!」



 打球が烏丸からすまの前にフラフラただよう。ポテンヒット臭い打球だ。



「ここでフライ!」



 烏丸からすまは両手を漆黒の翼に変えて、ツバメのように地面スレスレを飛ぶ。グローブ代わりの口ばしでボールをキャッチする、ことが出来なかった。



 突然の横風が彼の飛行を不安定にさせる。ボールは彼の口ばしではなく、芝生に吸い込まれた。



「クアー! せっかくの見せ場ガァ!」



 レフトフライのファインプレイが、ツーべースヒットになってしまう。



「次こそは捕る、次こそは……」



 2番川嶋かわしまの鋭いライナーが三遊間に飛ぶ。烏丸からすまは打球がレフトに来ると思い、地上で猛ダッシュ。だが、津灯つとうがジャンプ一番、打球を捕った。



「アウト! スリーアウトチェンジ」



 長い4回表をファインプレイで終わらせた津灯つとうに敵味方関係なく拍手が送られる。烏丸からすまは彼女に釣り合う名選手になろうと、明日からの猛特訓を心の中で誓ったのだ。



(続く)

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