73球目 神の手クレイジーに負けない

 東代とうだいが俺の元にやって来る。今度はネイティブな英語を交えてしゃべる。



スリーミニッツ3分前の私はどんな感じでしたか?」



 彼は口元をミットで隠しながらしゃべる。さっきの開けっ広げだったクレイジー東代とうだいと大違いだ。



「日本語オンリーで別人みたいだったよ。それがどうかしたのか?」


「アハーン。ミスター・バンバもアナザーマン別人みたいです。さっき、シイバにさわられてからクレイジーです」


椎葉しいばの超能力か。と言っても、番馬ばんばさんの頭叩くのは怖いし、ただ単に調子悪いだけかもだし」


「確かめましょう。ミスター・ヒボシ、カモーン」



 東代とうだいが手招きすれば、宇宙人・火星ひぼしが忍者走りでやって来る。



「ミスター・バンバにテレパシーを送って下さい」


「了解。送信準備、点検、完了」



 火星ひぼしは左眉の上に人差し指を置いて念を送る。10秒ぐらいで番馬ばんばさんが目を白黒させて慌てふためく。



「うわっ? 何だ、オラゴンて」


火星ひぼしの力を覚えてないってことは?」


「リアル・クレイジーです」



 俺は番馬ばんばさんの腹めがけてボールを投げる。ど真ん中に命中し、番馬ばんばさんの顔が真っ赤になる。



「なっ、何しとんねん! 殺すぞ!」


「良かった、正常だ」


「ミスター・バンバ、アングリー怒りもいいですが、トランスフォーム変身しないで下さいね」



 番馬ばんばさんは満員電車で圧迫される人のように、頬や腹がぺちゃんこになって止まる。火星ひぼしがバリアでも張ってくれたのかな?



「超能力使えるのあと1回だから、次の打席は注意だな」


「イエス。ナウ(今は)、ヒロセをアウトにしましょう」



 球審にはスカウターがつけられ、目視しにくい超能力の使用の有無がわかる。1試合に4回以上使えば、バッターやランナーならアウト、ピッチャーならボーク(ランナーがそれぞれ次の塁へ進める、ランナーがいなければボール)の判定を受ける。



 ちなみに、延長になれば、1イニングに1回使えるので、超能力者の代打攻勢が可能だ。



広瀬ひろせに対してはどう攻めればいいんだ?」


ハイボール高めの球を打たせましょう。ハナマルハイスクールは、クリーンアップとシイバをのぞけば、ノーパワーです。ハイボールでフライアウトにします」



 普通の内野陣なら、内野ゴロゲッツーを狙うため、ボールを低めに集める。しかし、内野のエラーの連鎖が続いている今なら、カラス・プレイボーイ・宇宙人の外野に任せた方が良さそうだ。



「よし。早くこの回、終わらせるぞ」



 4回裏は俺に打席が回る。1球でも1秒でも早く、あの椎葉しいばにリベンジしたい。



(続く)

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