70球目 推薦枠は増やさない

 椎葉しいば草能くさのは50m走、遠投、守備テストを受けた。椎葉は3つとも合格したが、草能くさのは全て不合格だった。



草能くさの君。残念だけど、推薦すいせんはナシということで」


「ですよねー」



 草能くさのは目を伏せて唇をかむ。病弱な自分が今まで椎葉しいばと一緒に野球をやれただけでも奇跡なのだ。これ以上の奇跡を望んだらバチが当たると、心の中で咀嚼そしゃくするように何度も言い聞かせる。



「いいや。草能くさのは俺と一緒になると力を発揮できるタイ。花丸はなまるのエースだって打てるとね。再テストは打撃でお願いします!」


「ええ? しかし、中学生が高校生のボール打てるワケが……」


「打たせてやらぁいいタイ」



 困惑するスカウトの片を吉田よしだ監督が叩く。名将の出現に草能くさのは驚き、椎葉しいばは小さくガッツポーズする。



「うちのエースの本郷ほんごうから2人がかりで点を取れば、推薦すいせんを認めるタイ。ただし、1点も取れなければ、2人とも推薦すいせんナシにすると。どうする?」


林太郎りんたろう、やっぱやめよ。ボクなんかのために、推薦すいせんを棒に振らなくてもいいよ」


「なぁにを言うとるタイ。俺とクサノンは運命共同体。どんな時も2人一緒の野球部とよ!」



 椎葉しいばの燃える決意は揺るがず、花丸はなまる高校エースとの対決になった。



※※※



 本郷ほんごう美裕よしひろはMAX147キロのストレート、ランダムで変化量が変わるサークルチェンジを武器とする右の本格派だ。彼は去年の秋の九州大会優勝投手で、プロ注目の逸材だ。



 そんな投手から2人がかりで点を取ると聞いて、多くの部員が集まった。本郷ほんごうに恥をかかせまいと、内外野ともにレギュラークラスの選手が守る。



「さぁて、クサノン。あの内野の弱点はどこと?」


「うーん。ショートかなぁ。左足が悪いみたい」



 草能くさののファイアーバーズ・アイが、ショートの負のオーラを感知する。体中を包むオーラが、左ひざだけブラックホールのようにぽっかり空いている。



「よし。それじゃ、俺から先に打つタイ」


「おい、中坊。ちゃんとバット振れるかぁ」



 本郷ほんごうはボールをもてあそびながら、椎葉しいばを挑発する。椎葉しいばおくすることなく、鼻で笑いながら左打席に入った。



(続く)

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