63球目 遊び球はいらない

 彼女の俺へのお願いは2度目だろうか。初対面で野球部に入れって、今考えると、かなり強引だな。実際に、彼女の強引な方法で、たくさんの面白い連中が集まった。俺も本当の野球の面白さを知ることが出来た、



 だからこそ、ここで打たなくちゃ。野球経験者の俺が、皆の手本を見せるのだ。



 3球目のサインを見た椎葉しいばから覇気はきが消える。キャッチャーが高めに構えてるから、遊び球(ストライクを取るつもりのないボール球)のサインか。ノーコン速球派のピッチャーの場合は、コースを意識すると球威きゅういがなくなるって、野球キチ親父が言ってたな。



 バットに届く範囲なら打てる。キチ親父の頭を勝ち割る勢いでスイング。当たった、飛んだ、打球はレフトの前へ。レフトが超能力者じゃありませんように、おっ、落ちたぁ!



 レフト前ヒットで、津灯つとうがホームイン。浜甲はまこう野球部再スタートの1点が取れた。一塁ベースコーチの東代とうだいとハイタッチ。



「ナイスバッティング! さっきのスイングが、ジャパン名物“アッキューウチ”ですか?」


「まさか。あの程度のボール球は悪球に入らないよ」



 俺の次の打者は、ボールゾーンの悪球を打ちそうな巨漢・番馬ばんばさんだ。おデブな彼が体を震わすと、たちまちにして筋肉隆々の赤鬼になる。巨大化する超能力者専用のタイツ型ユニフォームを着ているので真っ裸にならないが、筋肉のラインがくっきり見えてエロい。ギリシア彫刻ちょうこくかな?



「さぁこいや!」



 キャッチャーは震えているが、ピッチャーの方は飄々ひょうひょうとしている。1点取られたぐらいでは崩れないタイプだ。



 初球は縦スラを空振り。2球目も同じ縦スラを空振り。



 そのスイングは、周囲の空気を切り裂かんとする鬼スイングだ。番馬ばんばさんが持ってるバットがトゲだらけの金棒に見えてきた。



 3球連続で落としてくるだろうか。椎葉しいばは一塁ランナーの俺を見て、不敵な笑みを浮かべてから投げる。



「ストラックバッターアウト!」



 2度あることは3度ある。番馬ばんばさんの怪力は椎葉しいばの縦スラを打てずに終わった。



(続く)

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