64球目 ストライクが入らない

 2回表も0点に抑えた俺は、一塁ベースコーチになる。2回裏の浜甲はまこうの打順は、宇宙人、ゲーマー、カラスか。パワーはないが、嫌らしいバッターだらけだ。



 右打席に入った火星ひぼしは、額の目を開く。三つ目ににらまれた相手投手は妙にそわそわして、ロージンバック(白い粉が出る。滑り止めに使う)を手に取る。火星ひぼしは意外と威圧感があるのかな。



 椎葉しいばはロージンバックを元の位置に戻してから投げる。威力のあるストレートがミットに収まったが、外のボール球に。その後も外れに外れて3ボールナッシングになってしまう。



「何やってるタイ! ど真ん中投げても打たんとね」


「いやぁ。ちゃんとストライクゾーン目がけて投げとるばい」



 椎葉しいばはキャッチャーの返球を受け取って、首をかしげる。彼は火星ひぼしの顔が視界に入ると、露骨ろこつに嫌そうな顔をする。



「ど真ん中こい!」


「おう! 行くと、奥永おくなが!」



 椎葉しいばは腕を振り切るいいフォームで投げた。しかし、ボールはマウンドとホームベースの真ん中でバウンドするクソボールになってしまう。ストレートのフォアボール(4球連続ボールを投げること)で、火星ひぼしが出塁する。



宅部やかべ君、サインはこれね」



 グル監がダブルピースからの右目のウインクをする。ヒッティングのサインだ。



 宅部やかべさんは打席に入ると、逆ささやき戦術(本来はキャッチャーがバッターに対して何か言って惑わせる)を実行する。



椎葉しいば、左のオーバースロー、MAX135キロ、コントロールG、シュート2、縦スラ4、特殊能力は四球フォアボール



 相手投手をべスフレ(ベースボール・フレンズ)の能力査定して挑発するとは、さすがゲーマーだぜ。



「俺のコントロールがGで、フォアボール持ちだと? ふざけるなぁ!」



 椎葉しいば、キレる。マッチョ化や獣化はしないが、肩の筋肉が解剖かいぼう後のカエルのようにピクピクしている。



 フォアボール後の初球は必ずストライクゾーンに入れてくるから、絶対に打ってほしい。俺は宅部やかべさんに「積極打法、初球〇」とエールを送る。



 椎葉しいばが投げたのは高めのストレート、甘い。宅部やかべさんのダウンスイングが絶好球をとらえる。ピッチャーの股下を抜くセンター前ヒット!



 と思いきや、ショートが二塁寄りにいて、捕られてしまう。6-4-3のダブルプレー。宅部やかべさんは「ファッキン」と小声でつぶやき、舌打ちする。



 次の烏丸からすまさんはサードのファウルフライに倒れて、この回は無得点だった。残念。



(続く)

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