62球目 デッドボールで死にたくない

 俺が打席に入ると、6人の観客が応援のボリュームを上げる。



「かっ飛ばせ、水宮みずみやぁ! 山科やましな様の作ったチャンスをつぶさないでぇ!」


「打て打て打て水宮みずみや!」



 ベンチの方を見れば、監督がエアスイングをして手を3回叩く。そんなサインあったっけ?



水宮みずみや君、ホームランのサインよぉ!」



 それ言うたら、サインの意味ありまへんがな、グル監……。俺は苦笑いして、打席の土を踏み固める。



「お前はまともタイ」


「それはどうかな?」



 俺は思いっきりベース寄りに立つ。俺の両腕でキャッチャーの顔が隠れる。ノーコンのピッチャーを恐れない、攻めの姿勢だ。



 椎葉しいばはうなずいて、俺への第一球を投げ、うおっ、あぶな!



 頭部へ当たりそうなボールだった。すぐのけぞってよけられて良かった。もし当たっていたら、病院送りだ。



「危ねぇボール投げやがって!」



 番馬ばんばさんが腕まくりして顔を真っ赤にする。俺は「大丈夫です」と笑顔で答える。彼はどかっとあぐらをかいてサークル内に座りこむ。乱闘らんとうも防げた。



 常識的なキャッチャーなら、ブラッシングボール(打者への威かく球。デッドボールスレスレのゾーンに投げ込むといいぞ)の後は外に投げさせるだろう。



 2球目。キャッチャーが外に寄った。俺が好きなストレートが外角高目アウトハイにきた! 半年ぶりのフルスイングだ。



「ファール!」



 ああ、左に切れるファウルになってしまった。ツーベースヒット級の当たりなのにもったいない。これで0-2で追い込まれた。



 三塁ランナーの津灯つとうと目が合う。彼女はもじもじしながらこう言う。



「えっと、あたし、あたしをホームに返して下さーい!」



(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る