46球目 宅部はバントしたくない

※今回は宅部やかべカオル視点です。



 小さい頃は、かけっこ、計算、漢字のきれいさ、ケンカなど、誰にも負けへんかった。特に、野球に関しては、6年の先輩より速いボールを投げられ、2年から試合に出られた。この頃の俺、マジ神童しんどうやわ。



 両親やチームメイトからは、未来のメジャーリーガーと言われる。俺は周囲の期待に応えるべく、メジャーリーガー養成ギブスや重いコンダラーで特訓を積んだ。目指せ、年俸30億円のメジャーリーガー!



 しかし、5年生になると伸び悩み、同級生や後輩にレギュラーを奪われる。幼少期の筋トレがアダになって、身長が伸びなかったのだ。ファッキン!



 元々はピッチャーの俺だが、試合に出るため、ありとあらゆるポジションに挑戦した。しかし、俺より肩が強い奴、足が速い奴、顔がいい奴などなど、様々なライバルが現れる。最終的に、俺は代打要員になった。断じて、ベンチで皆のグローブやバットをみがく係ではないぞ。やってたけどよ……。



 6年生の夏、近畿きんき大会の一回戦で、天王寺てんのうじズーファイターズと対戦する。ズーファイターズの獣人クリーンアップ(打順が3・4・5番の選手たち)に打ち込まれてしまう。あいつらのパワーは反則だろ。



 最終回に1点返して5-8。一死一・二塁のチャンスで、俺は代打で登場。



 小学生最後の打席で同点ホームランを打つと意気込むも、監督のサインは送りバント。頭おかしいんじゃねぇか、監督。



 バントで終わりたくなかったので、わざと失敗して2ストライクに追い込まれた。



 3球目にヒッティングに切り替え、ライト線ギリギリファウルのフェンス直撃の一打を放つ。



 ボールが止まって見えるぜぇ。こういう時は、ホームランが打てる時だ。俺はバットを強くにぎにぎするも、監督に呼び出しを食らう。



「バントのサインを無視しやがって。茶間ちゃまと交代や」



 監督はハリセンで俺の頭を叩く。暴力反対、交代反対!!



「そっ、そんな。3点差で送りバントなんて……。負けるつもりならともかく……」


「だまらっしゃい! 二死になっても、次はパワーヒッターの神川かんがわや! 誰もお前のホームランなんか望んでへんのや。ヒッティングしたかったら、神川かんがわみたいにガンガン打ってから言え」



 たしかに、神川かんがわは俺より20センチぐらい高いし、カンガルー化して長打を量産してきた。頭は悪いが、俺より打率と顔がいい、チクショー!



 だが、バントするだけの代打はないって。ヘボ打者バッターならともかく、俺は代打でほぼ毎試合、ヒットやフォアボールなどで出塁してきた。今日だって、あと少しでツーベースヒット級の当たりを放っている。



「俺は2年からずっと試合に出とるぞ、監督。他の奴らよりも試合なれしとる。こんな場面でも落ち着いてプレイできるんは、茶間ちゃまより絶対に俺や!」


「2年から出とるか……。あの頃と同じチビやなかったら、俺も迷わず打たせるのに」


「監督、チビベ、落ち着いて。俺ちゃんが同点ホームラン打つからさ」


「チビベ先輩はゆっくり休んどいて」



 どいつもこいつも、俺のことをチビチビ言いやがって。野球は体格差や超能力の有無に左右されないスポーツのはずやろ。背が低い俺がホームラン打ってもええやろ。あー、チームメイトがアホやから野球できへん。



 岩より頭の硬い奴らは、送りバント失敗と空振り三振で、ゲームセットにさせた。俺の野球人生もゲームセットを迎えた。



※※※



 俺は中学に入ると、身長に左右されないゲームの世界にのめりこんだ。この世界やったら、俺はホームランを打てるし、魔物を倒せる。



 高校生になると、ソロプレイで世界大会を目指した。色んなチームから誘われたが、俺は基本的に人を信用しない。自分の力こそが正義、自分が神、そう思ってきた。



 それなのに、あの女のことがどうしても気になってしまう。



「家でゲームもいいけど、野球のゲームも面白いよ。今入ってくれたら、日曜のゲームはセカンドのスタメンで出すよ!」



 俺は「くそが!」と、コントローラーを床に投げつける。



 このままじゃ、ゲームに集中できない。明日の放課後、あいつらがどんな感じで野球やってるか、見に行ってやるわ。クソったれぇ。



(初の練習試合まであと6日)

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