45球目 帰宅部は学校に長居したくない

 千井田ちいださんはクラスの男子をけしかけ、終礼が長引くように仕組んだ。男子達が担任に彼女は出来たかーとからかい、担任がムキになって否定する。そのやり取りで終礼は長引き、廊下に野球部全員集合だ。



 さよならと同時に、小柄の出っ歯の宅部やかべさんが教室から飛び出す。100メートルの金メダリスト級のロケットスタートを見せるも、180㎝超の山科やましな番馬ばんばの双璧は越えられない。



「なに?」



 宅部やかべさんはうさん臭そうに眉間みけんにしわを寄せる。



「野球部に入らへんか?」


「野球部で人生観変えようよ、僕と一緒に!」


「断る」



 即答で即帰宅。俺や千井田ちいださんもついて行けないほどの早歩き。ただ、津灯つとうはくらいついて、彼の前に立って通せんぼする。



「待って! 家でゲームもいいけど、野球のゲームも面白いよ。今入ってくれたら、日曜のゲームはセカンドのスタメンで出すよ!」



 セカンドのスタメン確約でも、宅部やかべ津灯つとうと壁の間をすり抜けていく。



「日曜の朝10時、うちの野球グラウンドでスタート! 相手は福岡の花丸はなまる高校よ! よろしく!」



 津灯つとうがメガホン越しで宅部やかべに伝える。これはドラフト指名拒否確実だな。



「彼が来なかったら、私がセカンドやるわ」


「ありがとう、スーちゃん」



 津灯つとう本賀ほんがの2人は熱いハグをかわす。ファーストが真池まいけさん、セカンドが本賀ほんがさんだと、ザル守備すぎんだろ。



 やっぱり、セカンドは宅部やかべさんがいいな。



(初の練習試合まであと6日)

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