42球目 セカンドがいない

 土曜の練習でクタクタになった俺は、翌日の日曜はゲームとマンガざんまいした。出来たら、もう一日休みたいと思っても、月曜日はやって来てしまう。



 俺は心の中で何度もため息をつきながら登校する。正門前に来ると、笑顔の津灯つとうが立っている。



「おはよう、水宮みずみや君。今日も頑張ろうね」


「お、おう。ケガしない程度に頑張るよ」



 先週出会った時からずっと、彼女は太陽の微笑みを浮かべている。どうしてこんなに明るくいられるのか、その秘訣ひけつが知りたいよ。



「初の練習試合まで一週間切ったから、そろそろオーダー決めたいね」


「そうだな。ピッチャーは俺、キャッチャーが東代とうだい、ショートが津灯つとうで決まってるが、他は……」


「個人的には番馬ばんばさんをファーストにしたいけど、真池まいけさんがゴネるからファースト。そしたら、番馬ばんばさんがサードで、外野は火星ひぼし君、山科やましなさん、烏丸からすまさん、千井田ちいださんの中からやね」



 一塁手ファーストは色んな送球を確実に受け止める必要があるので、背が高い選手がふさわしい。だが、ロックンローラー・真池がファースト(一番)にこだわるせいで……。



「野球経験者の山科やましなさんはセンターに置いときたいし、ホームランをキャッチできる飛行力がある烏丸からすまさんはレフトかライトがいい。それじゃあ、千井田ちいださんか火星ひぼしのどっちかをセカンドに回すか」


「うーん。千井田ちいださんは小回りが利かないし、火星ひぼし君は背が高すぎてセカンドに向いてないね」


本賀ほんがさんはどうなんだ?」



 津灯つとうの幼なじみの本賀ほんがは、図書委員と野球部を掛け持ちしている。お世辞せじにも運動神経が良いとは言えない。



「スーちゃんはダメ。運動量の多いセカンドはアカンと思う」


取塚とりつかさんは左投げだからセカンドはムリ。ああ、セカンド不足だ」



 11人もいるからと安心していたら、思わぬ穴が発覚した。



「でも大丈夫。あたしがバレー部かテニス部あたりから誘ってみるから」


「おう。それは頼もしいな」



 俺達は教室前に来たところで、いい方向に話がまとまった。しかし、校内放送がそれを許さなかった。



「1年B組の水宮みずみや君、1年C組の津灯つとう君、至急しきゅう、理事長室に来て下さい」



(初の練習試合まであと6日)

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