41球目 人類の進化は止まらない

「えっ? 冗談で言ったのに、ホントに連れて来てくれたん? うれしー!」

 


 津灯つとうが大喜びで俺達を迎える。他のチームメイトも次々と駆け寄って来る。



「1年F組。火星ひぼし円周えんしゅう。よろしく」



 拍手の大歓迎。俺と東代とうだいはバツが悪そうに、口を結んでうつむいている。番馬ばんばさんはつるつるドラゴン、ぷにぷにドラゴンと、呪文のようにひとり言を繰り返す。



「さて、どこ守ってもらおっかな。背が高いから、ファースト向きやけど」


「ノー! ファーストはオレの聖域! ロックンローラーは1番じゃないとダメだ!」



 真池まいけさんが全力で走って、一塁を抱きしめて動かない。



「じゃあ、ライト守ってもらえる? ボールが飛んできたら、このグローブでキャッチしてね?」


「グローブ。捕球。了解」



 火星ひぼしは腕を振らずにライトまで走っていく。忍者走りをする宇宙人、奇妙なコラボだ。



水宮みずみや君、手ノックでお願い!」



 火星ひぼしに捕球の様子を見せるため、俺はライト以外にボールを投げる。火星ひぼしは同じ外野の山科やましなさん・烏丸からすまさんがボールを捕る様子を、じっと観察している。そして、ゆっくりとフェンスに引っつく超後退守備を取る。



 そろそろ火星ひぼしの方に投げるか。あんな守備位置では、浅いフライが全部ヒットになりそうだが。



 ライトフライになるよう投げてみる。火星ひぼしは打球を見ながら、忍者走りで落下予測地点へ。落ちる間際にグローブを出してキャッチした。



「ナイスキャッチ!」


「野球。興味津々きょうみしんしん



 火星はボールのい目をレーザーで照らして見ている。彼は無表情だが、きっと楽しんでいるに違いない。



 人類の危機が去ったと同時に、浜甲はまこう野球部が強くなって良かったなぁ。



(初の練習試合まであと8日)

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