7球目 東代の実績がハンパない

 浜甲学園はまこうがくえんの野球場は全く手入れがされておらず、雑草が伸び放題、壊れた道具や機械などが捨てられていた。ゴミ捨て場かよ。



 おや? ピッチャーマウンドからバッターボックスの間だけ草が生えていない。



「ここだけ草を刈り取ったの。水宮みずみや君が投げやすいように」


「どうも、おおきに」



 俺はわざとらしい関西弁で感謝を伝える。津灯つとうはベンチから野球用具を引っ張り出して、表面がデコボコの金属バットを取り出す。



「では、今から東代とうだい君は、このバット持って白いボックスの中に入ってや。カレッジ時代にベースボールのプレイ経験はあった?」


「アー、リトル。同じラボ仲間と遊びでプレイしたぐらいです」


「ちょっと待ってくれ。カレッジってことは、東代とうだいは大学出てるのか?」



 俺が目を丸くして尋ねると、彼はそれが何かと言いいそうな顔で答える。



「イエス。サンバード大学を首席でグラッデュエイト卒業しました、スリーイヤーズ3年前に」



「凄いやん。15歳で大学卒業?」



 東代とうだいは首を激しく横に振る。



「ノー、トゥウェルブです」


「トゥウェルブは12だから、今は15歳やん! スゴッ! むっちゃ天才やん!」



 千井田ちいださんは尻尾をビュンビュン振って、東代とうだいに興味津々しんしんだ。俺は若干引き気味だ。なんか、こういう天才オーラ出してる人は苦手だ。



東代とうだい君はIQ156で、先月に日本が発射した木星探査機の製造にも関わっとるもんね」


「オーウ。シークレットにしてたことも知られてましたか」



 IQ156て、数字的にかなり速い球を投げそうなイメージだ。こんな中堅私立高校に通うなんて、宝の持ち腐れだぞ。



「せっかく、ジャパンのハイスクールに来たんやから、スタディ《勉強》以外のことにもチャレンジしてみない? てなワケで、バット握って、ボックス入って」



 東代とうだいはバットを長く持って打席に入る。脇がしまっているが、小ぢんまりしたフォームだ。



「OK。ピッチャーは誰ですか?」


水宮みずみや君が投げてくれるよ。IQ156リスペクトで、時速156キロのボール投げてね」


「そんなタマ投げれっかい!」



 もし俺が156キロのボールを投げられたら、今も名門校で野球を続けているはずだ。津灯つとうは「冗談じょうだん、ジョーダン、魔法のジョーダン」とニコニコしている。とてつもなく腹の底からムカムカしてきたぞ。



 150キロのボールは無理だが、自分の全力ストレートを見せてやろうじゃねぇか。



(水宮入部まであと7人)

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