3球目 陸上部員のマシンガントークが止まらない

 ホームルーム終了後、津灯つとうは俺の手を引っ張って、どこかへ連れていく。



「おい、コラァ! 俺はまだ野球部員じゃねぇぞ」


「ごめんね、水宮みずみや君。私1人で勧誘するの怖いから、隣にいてほしいと思って」



 意外にも彼女の握力は強く、一度も止まることが出来ない。階段を下りて、下駄箱げたばこの所に来てしまった。



「記念すべき1人目は、足が速い子がええよね。俊足の1番打者で、相手ピッチャーを困らせる。これ鉄板てっぱん!」


「そんな奴、どこから手に入れる気だ?」


「もちろん、陸上部から!」



 彼女はグラウンドのトラックで練習している陸上部員を指差す。



 ※※※



 彼女はストレッチ中の陸上部員に声をかける。



「この陸上部で一番速い人って、誰か知っとる?」



 その陸上部員は黒いネコ耳をピンと立てて、ヒゲをいじりながら答える。



「そりゃおめぇ千井田ちいだ先輩に決まってるで。千井田ちいだ先輩は去年の国体の100メートルで6位や。調子ええ時は男子より速いからな。次のオリンピックに出られる逸材って、ウワサされとるで」



 聞いていないことまでベラベラしゃべる。しかも、お笑い芸人ばりの早口だ。



「ありがとう。その千井田ちいだ先輩はどこ?」


「あそこでバランスボール乗っとるよ。入部希望かいな?」


「ううん。千井田ちいだ先輩を野球部に勧誘しに来たの」



 近くにいた数人が「何ぃ!?」と、眉間みけんにしわを寄せて叫ぶ。津灯つとうおくすることなく、つかつかと千井田ちいださんの所へ歩く。



千井田ちいださん、100メートル走してみませんか? あたしが勝ったら千井田ちいださんは野球部、千井田ちいださんが勝ったらあたしが陸上部ってことで」



 千井田ちいださんはひざの血をなめてから、津灯つとうをにらみつける。その眼光はサバンナでも通用しそうなほど鋭い。モデルのようにスラリとした足に、カッターナイフみたいに尖ったネイル、アッシュがかかった茶髪で、女番長といった雰囲気だ。



「ええやん、ええやん。そういう無謀むぼうな勝負しかけてくる子、嫌いちゃうよ。先に言うとくけど、あたいは常に全力やから、あんたに勝ち目ないよ。野球部復活は今年もムリや。取り消したいんなら、今やで」



 この方もよくしゃべるし、早口だ。もしかして、陸上部員はマシンガントークが得意なのか?



「取り消しません。絶対にあたしが勝つから」



 彼女はVサインをかかげて、陸上部員の怒りを沸騰ふっとうさせた。



(水宮入部まであと8人)

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