2球目 野球部の勧誘はいらない

 可愛い女性に部活の勧誘かんゆうをされる。とても萌えるシチュなのに、全く萌えない。



 なぜなら、俺の選択肢せんたくしにない野球部に誘ってきたからだ。



「ハッ? 野球部? 野球部はないはずじゃ……」


「あたしが作ったの」



 彼女は胸を張って答える。



「悪いけど、俺は野球部に入らないよ」



 俺はそっけなく答えて、自分の席に戻ろうとする。だが、彼女が俺の左腕をつかんで離さない。



「待って。もったいないやん。小学生で全国大会出て、中学生で神奈川県ベスト4まで進んだピッチャーやのに、どうして野球部入らんの?」


「野球は中学までで終わりにしたんだ。無能力の俺なんかより、ああいう超能力者を誘えよ!」



 俺はドラミングしてるゴリラ化男子をあごで差す。



「ううん。水宮みずみや君じゃないと、絶対アカン」


「何で、そこまで俺にこだわるんだよ」


水宮みずみや君は気づいていないだけで、とても凄い才能があるんよ! それを出さずに終わるなんて、もったいないて」



 オヤジが彼女と似たようなこと言ってたっけ。努力を続ける才能があれば、超能力者を越える名選手になれるって。そんなのは夢物語だ。



「俺が、君の思う凄いピッチャーだとしよう。だが、どんな凄いピッチャーでも、そこそこ守れる8人の選手がいなきゃ、勝てないんだ。ここ20年野球部がない浜甲はまこうに、そんな奴がいるか? いないだろう」


「いい選手は、あたしが見つけるから! 8人そろえたら入ってくれる?」


「早くしないと、みんな何かしらの部活に入るぞ」


「じゃあ、1週間! 1週間で8人ね」



 彼女は人差し指をピンと立てて食い下がる。1日1人強だと、条件を満たすかもしれねぇ。それならば――。



「いや、明後日の1時限じげん目までに8人だ。それ以上は待たねぇ」



 実質2日で8人。元々は野球部がない浜甲はまこうに、わざわざ出来たてほやほやの野球部に入る奴なんていやしない。



 厳しい条件を出されても、彼女は桜満開の笑顔を見せる。



「ありがとう! 水宮みずみや君ゲットしたいから、あと8人頑張るね」


「うーん、頑張らなくてもいいんだけど……」



 部員獲得でサウナばりに燃える彼女と対照的に、俺の心はドライアイス級に冷え切っている。



(水宮入部まであと8人)

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