1回表 浜甲学園野球部の復活!

1球目 ロマンティックが止まらない

 俺は教室の窓から海をながめている。春風が運ぶ潮の香りは、故郷の湘南しょうなんを思い出させてくれる。やっぱり、海の近くじゃないと落ち着かないね。



「カァカァカァー!」



 ゲッ。カラスの口ばしがついた男が電柱の上に乗って、電線のカラスと一緒に鳴いてやがる。こんな光景は湘南しょうなんになかったぞ……。



 ここは、兵庫ひょうご西宮にしのみや市の南端にある私立浜甲学園はまこうがくえんだ。甲子園こうしえん球場の近所にある高校だが、なぜか野球部がない。それが、俺の進学先の決め手となった。



「部活、どこにするぅ?」


「せやなぁ。山科やましなさんがおるバスケかな」



 バラエティ番組でよく聞く関西弁が、俺の席の周りで花開いている。俺はお笑いのセンス皆無かいむだけど、大丈夫かなぁ。



 あと、部活は何にしたらいいんだろうか。ずっと野球一筋だったから、全く思いつかないぞ。



 体育会系なら、サッカーやバスケがいいか。しかし、他者と競うのは、ものすごく疲れるから、もうこりごりだ。ゆるい文化系がいいかも。



「あのぉ、水宮みずみや君やんね?」



 後ろから声をかけられたので振り返る。目がクリッとしたショートボブの女子だ。



「そうだけど、君は誰?」


「えっと、あたし、津灯つとう麻里まりです。水宮みずみや君に、そのぉ、相談が……」



 もじもじしている彼女はかわいい。俺は部活で悩んでいたが、女の子とアオハルするのもアリか。



 って、おいおいおい、冷静に考えてみれば、初対面の男に相談って何なんだよ。しかも、何で俺の名前を知ってるんだ? 入学式終わりで教室に来て、自己紹介タイムがまだなのに。



 固まった謎は、彼女の次の一言で解きほぐされる。



「野球部に入って下さーい!」



(続く)

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