一年の終わり
〈れお〉
もうすぐ一年が終わる。
今日は、12月24日のクリスマスイブだ。
僕とかなの暮らすアパートの一室には、かなの提案によりクリスマスの飾り付けがしてある。
ミニのクリスマスツリーも買って、鈴や、小さな靴下、それから杖型の飴など、色んなものを吊した。
僕も、それなりに楽しんでいた。
「今日は、お昼は出前のお寿司で、夜はチキンか。贅沢だなあ。」
僕は、食卓をはさみ真向かいに座るかなに、こう言った。
「そうだね、私達、贅沢だね。」
かなが嬉しそうに笑う。
「寿司屋のお影で、毎週土曜日は必ずと言っていいほど平和だ。」
僕はおどけてみせる。
「平和ってなんか壮大だね笑。でも、お寿司を毎週食べられることが、私にとってのささやかな幸せを作ってくれていることは確かだよ。しかも、無料で食べられるんだからね。ついこの前まではこんなこと想像もしてなかったよ笑。」と、かな。
「ほんと、棚から牡丹餅だよな。でも、ささやかな幸せなんか言われちゃったら、あの寿司屋に嫉妬しちゃうなあ笑。」と、また僕はおどける。
「大丈夫。いつだって私の苦しみを包んでくれるのはれおくんだけよ。」と、かな。
「僕も同じだよ。」
と、僕もオウム返しする。
「勘違いしないでほしいんだけど、ささやかな幸せとは言ったけど、お寿司で私達の今までの苦しみとかが払拭されたらすごいからね。それは、もはや神話だよ笑。生きることの対価には到底及ばないからね。」
かなが、何だか難しい話をする。
「うん、まあよくわかんないけど、なんとなくわかった。うん、そうかもな。」と、僕。
「ねえ、れおくん、私がもし死んだら、悲しい?」
かなが、いささか唐突すぎる質問をしてきた。
「え、何言ってんだよ。悲しいに決まってんだろ。かなが死んだらな、多分、僕、耐えきれなくなってあと追いするよ。もし、耐えきれても、どうなっちゃうかわかんないなあ。想像すると、怖い。てか、何で今聞くの?」
と、僕は真面目に答えた。
「この間のさ、あの、例の猫のこと思い出して。私も、あんな風に飛び降り自殺しようとしたことあるから。」と、かな。
「ああ、それでな。僕は話に聞いただけだけど、その猫、まじで危なっかしいシュチュエーションだったみたいだな。」
僕は、かなが話をしていた、ついこの前の屋上での出来事を思い出した。
〈かな〉
数日前、私は、屋上で星を眺めていた。理由は伏せておく。まああまりいい理由ではない。
夜空を眺めて、ただひたすらぼーとしていたら、猫が屋上の柵を飛び越えようとしているのが目に入った。
屋上に猫が入ってきたことは、私が夜空を見上げていたことがあり、それまで気づかなかった。
猫が柵を飛び越えようと足を蹴った瞬間、体が反射的に動いた。猫のところまで駆けて行き、飛んだ猫の胴をがっちり掴んだ。
「にゃー。」と、猫が鳴いた。
ああ、本当に危なかった。もし、万が一猫が柵の上を飛びきっていたら、屋上から真っ逆さまに落ちていたかもしれない。
8階から落ちて頭を打てば、人間の頭蓋骨は破裂せずとも、猫の頭蓋骨はどうかわからない。頭蓋骨が破裂すれば、無論のとこ即死だ。
私は、猫を腕で包み、ぎゅと抱きしめた。もう、危ないんだから。頭をそっと撫でた。
「にゃー。」
猫がもう一度鳴いた。
体から猫を離し、両手で自分の顔の前に持ってきて、猫の目を見つめた。
「もう危ないことしちゃだめだよ。」
そう言って、頭を再度撫でた。
そのあと、そのまま猫を抱きかかえ、アパートの1階まで下りた。
猫を道へ放つと、猫は私にお尻を向けて、アパートの下にあるコンビニの前を通り、何処かへ行ってしまった。
猫が見えなくなるのを見送った後、私は建物と建物の狭間からのぞく冬の夜空を見上げ、れおくんの元へ帰る決心をした。
「おかえりー。」
れおくんなら、こう言って、いつものように暖かく私の帰りを出迎えてくれる、そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます