十四の掟 ペナルティの解除には館長の許可が必要です

「ちょっと、出してってば!」


 部屋に押し込められてキャリーは扉をこじ開けようと力を込める。が、図書館の掟破りのペナルティで縮んだ体では、取っ手に手を駆けることすら大変な作業だった。


「お嬢様、お諦めください。ここはフィリップ様の力で封じられております。今のお嬢様の力では開けることは叶いません」


 後ろに控えていた侍女が眉をひそめて言うと、キャリーは勢い良く振り向いた。


「マーサ、あなたも手伝いなさい! あの方を捕らえるだなんて、わたくしが許しません! あの方は、わたくしがようやく見つけてご足労願った方なのです! あの方こそがマリオン殿下の唯一の救い手なのです!」

「落ち付いてくださいませ、お嬢様。フィリップ様は全てわきまえておいでです。クロード様をないがしろにするようなことは決してなさいません」

「だとしてもっ、あんな連行の仕方……あんまりじゃないの! まるで犯罪者扱いだわっ!」

「仕方がございません」


 マーサは目を伏せると息をついた。


「あの方は――王族をかどわかした大罪人でございますれば」

「マーサっ! あなたまでそんなことを言うのですかっ! あんな流言を信じるのですかっ!」

「どうぞ、落ち着いてくださいまし、お嬢様」


 マーサは扉の前で憤るキャリーの前に膝をつき、小さな声で囁いた。


「――クロード様が何の理由もなくそのようなことをするとはわたくしも思っておりません」

「え……」


 キャリーが驚きで目を丸くすると、マーサは微笑を浮かべる。


「五年前のことはわたくしも聞き及んでおります。だからこそ――クロード様とフィリップ様をどうぞ信じてあげてくださいませ、お嬢様」

「マーサ……」


 マーサはキャリーをやんわりと抱きしめる。顔を上げたキャリーは、侍女の頬に伝う涙に言葉を飲み込んだ。


「……ごめんなさい、マーサ。あなたに当たり散らしてしまって……」

「いいんですのよ、お嬢様。さあ、少し落ち着いたところで、お茶でもお淹れ致しましょうね」


 涙をぬぐいにっこり微笑んだマーサに手を引かれ、キャリーはソファに大人しく座った。


「それにしても……こんなに縮んでしまわれて……この姿変えの魔法を解いてしまいませんとね。魔術師を呼んでまいりましょう」

「マーサ、これは無理なのよ」


 部屋を出ようとするマーサに、キャリーは首を横に振った。


「これは、もの知らずなわたくしが、クロード様の管理する図書館の掟に触れた罰なのです。館長でなければ解除できないと言われているわ」

「そんな……なんてこと」


 嘆くマーサに、キャリーは顔を上げた。


「わたくしのことはよいのです。それより、マリオン殿下の十三歳の誕生日までもう時間がないの。わたくしをお兄様のところへ連れて行って。わたくしも王宮付きの魔術師、こんな姿でもやるべきことはやらないと」


 マーサは目を見開いたのち、嬉しそうに目を細めた。


「すっかり大人におなりですね、お嬢様。わかりました。フィリップ様にお伺いしてまいります。ここでもうしばらくお待ちくださいませ」


 キャリーは出ていくマーサの背を見送って、ため息をついた。





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