七の掟 本は元の場所に戻しましょう!

「仕方がありません、掟の縛りをかけましょう」


 クロ館長はそう言うと、ホールに出て行きます。ピンと耳としっぽを立て、髭を震わせて、飛び交う本たちに立ち向かってる感じ。カッコいいですっ。


「館内のすべての本に告ぐ。黒猫図書館の館長たるクロード・ル・クロッシュフォードの名において、速やかにあるべき場所へ戻れ。これは何より優先する、掟による命令である!」


 空中にあったすべての本が一斉に動きを止めました。

 そのまま行かない落ちてくるのかと思ったら、今度はゆっくり開架書庫へと飛んでいきます。閉架書庫の本は部屋の外に飛び出していないみたいですが、きっと部屋の中で飛び交っていたんでしょうね。


「いつも使えりゃ楽なんだけどなあ……」


 エディさんがぶつぶつ言っています。その気分、とってもよくわかります。

 これができるのは、お客さまがいない時限定ですもんね。図書館の営業中は、手で戻さなきゃいけません。


「無茶言っちゃだめですよー、エディさん。これ使った後はいつも、本たちが拗ねちゃって大変なんですからー」


 そうなんですよね。本が拗ねると貸し出しの時に嫌がったり、本棚の裏に隠れたりして、お客様が本を探し出せなくなって大変なんです。結局ワタシたちが捜索に駆り出されるので、仕事量も倍です。

 今回は騒動の原因になったキャリーさんがペナルティを受けて館内から出られないことになりましたし、本たちが騒いだり拗ねたりするだろうなあってことも予想できるのですよね。

 でも、ペナルティは図書館の掟を破った罰ですから、どうしようもありません。

 ワタシたちのお仕事には、本たちが機嫌よく『借りられて』行くように調整することも含まれているのです。

 だから大変なんですよー。


「この大技を使ったのは久しぶりだよ。まりーさん、エディさん。本の確認をお願いできますか。あきちゃん、タマさん。キャリーさんと一緒に応接室にお願いします。あ、あきちゃんはキャリーさんの服も一緒に持ってきて」

「はーい」


 エディさんとまりーさん、さっそく印刷したリストを手に散らばっていきます。

 ワタシはキャリーさんの黒い服を紙袋に詰めて、えっちらおっちらクロ館長の後を追いかけます。

 応接室の本は……借り出された本だからか、昨夜のままのようです。あのおっきな本が暴れてたらどうしようと思ってたので、ちょっとほっとしました。


「キャリーさんはその椅子にどうぞ。タマさん、そっちのソファを引っ張ってきてもらえます?」


 タマさんが出してきてくれたソファにクロ館長とタマさんが座りました。ワタシはその端っこにちょこんと乗っけてもらいました。足がぶらぶらします~。


「さて、キャリーさん」


 改まった口調でクロ館長が姿勢を正します。ピンと伸びたおヒゲと耳。

 あー……これ、怒ってますね。タマさんも同じ姿勢です。ワタシも一応、お二人に合わせて気難しそうな顔をしてみます。……できてるでしょうか?


「いろいろ事情があるようですね。貸し出しの際にきちんとお話しを聞いておけばよかったのですが」

「クロ館長には落ち度はねえよ」


 ぼそっとタマさんがつぶやくと、クロ館長の耳がぴぴっと跳ねました。感謝のしるしですねえ。


「お話し、いただけますか? キャリーさん」

「――そんなことより、あなたがあのクロッシュフォード伯爵なのっ!?」


 キャリーさん、いきなり椅子から飛び降りるとクロ館長に詰め寄りました。


「え?」


 クロ館長が伯爵さま?

 えー、そんなこと、ありえませんよー。

 伯爵さまがなんで図書館で寝泊まりしてるんですか。すごい寝相だし、寝言もすごいし、部屋もいっつも汚いんですよ?

 だけどタマさん、動じません。ぽりぽりと頭をかいています。

 あ、言い忘れましたけど二人とも直立猫スタイルです。


「クロッシュフォード伯爵なんですよね?!」


 重ねてキャリーさんが聞いています。

 サイズはワタシと同じですが、めちゃめちゃかぶりつきです。くっ、そんなに近くに顔寄せるのは反則ですよっ!

 クロ館長、ほら、早く違うって言ってくださいようっ。

「――こーなるじゃないかと思ってたよ。この子があの本を探しに来たって聞いた時に」

「この子だなんて失礼なっ! わたくしはキャロライン・フィッシャーズ。これでも、王立魔法学院を首席で卒業した、王宮付きの魔術師ですのよっ!」

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