四の掟 雨の日は何人たりとも館内にいてはいけません!

 発掘作業が中止になったので、今日は館内のお手伝いです。

 エディさんが扉の修理にかかりきりなので、返却された本のうち、一階の児童図書コーナーの本をエディさんに聞きながら本棚に戻します。

 二階以上だと本抱えたまま階段上れないのです……あー、はやくおっきくなりたいです。

 まりーさんみたいに、本を小脇に抱えてさっそうと階段を上がる自分の姿を想像してしまいます。かっこいい女になりたーい!


「扉の修理、終わった。おい、雨降ってきたぞ」


 扉を開閉させながら最終調整してたエディさんが、そう言いながら入ってきました。

 クロ館長が朝言ってた予報があたったんですねえ。


「お疲れ様でした―。お茶どうぞ―。じゃあ、閉館作業に入りますねー」


 紅茶をカウンターに置いて、まりーさんはばたばたっと受付のカウンターに座ります。


「あきちゃん、クロ館長呼んできてくれるー?」

「はーい」


 えっちらおっちら三階まで上ります。


「クロ館長、雨降ってきましたよー、閉館アナウンスおねがいしまーすい」

「はいよ」


 部屋の入口からそう叫んで、ワタシは上へと向かいます。とにかく窓の戸締り確認しなくちゃ。屋上にはタマさんのおうちがあるんですが、出入り口はひとまず施錠しますあ。雨が入ってきたりしたら大変ですから。

 ぴんぽんぱんぽーん。館内アナウンスが入ります。


『黒猫図書館をご利用のお客様にお知らせいたします。雨が降ってまいりましたので、当館は閉館いたします。貸し出しをご希望の方は急いで受付までおいでください。なお、閉架書庫の本の貸し出しは行っておりませんので、悪しからずご了承ください。繰り返し……』


 アナウンスの声もカッコいいです、クロ館長。いいなあ、凛とした声ってうらやましいです。

 上から見ていると、ぞろぞろとお客様が帰っていくのが見えます。三階も鍵を閉めて、開架書庫のコーナーを見て回ります。

 以前、かくれんぼしたまま眠っちゃった子が夜中に大泣きして、大変だったことがあるんですよねー。

 いました。

 ちっちゃいお客様ですがお子様ではありません。エディさんぐらいの背丈の人です。


「お客様、申し訳ありませんが、閉館となりましたので……」


 チッと舌打ちされちゃいました。雨が止むまで雨宿りさせてくれってお客さまもいるんですけど、雨が降ったら図書館はお休みしなきゃいけません。喫茶室も閉めるし、ワタシたちもみんなおうちに帰るので、雨宿りは無理なんです。

 このお客さまもそれでした。


「雨の中追い出すってぇのかい? まったく、サービスが悪いったらありゃしない」

「申し訳ありません、規則でして、雨が降ったら速やかに閉館しなければならないんです」


 平身低頭、謝るしかありません。掟なのですが、まずはお話ししてみてからです。


「どうかしたかい? あきちゃん」


 直立猫姿でクロ館長がやってきました。館長室のすぐ近くでしたし、声が聞えたのでしょう。助けてください、館長~。


「雨が止むまで雨宿りは無理です。いつ雨が止むか分かりませんし、その間、お客様を館内に置いておくわけにはいかないのです。規則でして」


 クロ館長が出てきたおかげか、お客さまは渋々階下に降りていかれました。クロ館長が後ろをついていきます。ワタシは頭を下げてお見送りしたあと、他にまだお客様が残ってないかを確認して回りました。

 五階と四階はよし、三階もよし。二階もよし。立ち入り禁止の意味でロープを階段に掛けていきます。

 一階に降りてくると、開架書庫のコーナーは全部もうロープで閉鎖されていました。おトイレもよし、奥の方の鍵も確認してロープを張ります。


「あ、そういえばキャリーさんは?」

「ああ、あの人ならアナウンスがあった途端に飛び出して行きましたよ」


 と答えたのはタマさんです。閉館間際の受付業務でまりーさんが忙しかったみたいで、一回の見回りは全部タマさんがしてくれたそうです。


「ノートや鉛筆もそのまま放り出してあったから、机に戻しておきましたけど。本も開きっぱなしだったのでしおりを挟んで閉じてあります。明日来るって言ってましたから、大丈夫でしょう。応接室は窓も扉も鍵をかけておきました」

「タマさんありがとう。では、我々も退館しましょうか。エディさん、扉の修理お疲れ様でした。間に合ってよかった」


 クロ館長がねぎらうと、エディさんは嬉しそうに髭を撫でています。


「まったく、我ながらよく間に合ったもんだと思ったよ。今度吹っ飛ばされたら蝶番の部分を新造しないとダメかもな」

「次回がないことを祈りますよ。さ、帰りましょう。まりーさん、僕らの宿の手配、お願いできますか?」


 雨の日だけはクロ館長もタマさんも図書館で寝泊まりできないんだそうです。図書館の掟そのよんです。


「はーい、もう取ってありますよー。いつものタンゴ亭でよかったんですよねー?」

「ええ、ありがとうございます。さすがですね」


 まりーさん、嬉しそう。いいなー、褒めてもらえて。

 最終点検をクロ館長がして、全員で図書館を出ます。


「そうだ、エディさん。一杯飲みませんか。今日のお礼です」


 扉を出て、ワタシの渡した大きな鍵で扉に鍵をかけながら、クロ館長が言い出しました。まだ日が暮れるまでは時間がありますもんね。


「いいですねえ、まだ時間ありますし」

「タンゴ亭のレストランでいいよね。タマさんも一緒に。まりーさんも来る?」

「ありがとうございますー、ご一緒したいですー」


 いいないいなー。オトナの人だけでお酒飲むんですよね、時々こうやって。

 でも、ワタシはまだお子様なので、ご一緒できません。

 くやしー。はやくおとなになりたぁい。

 唇を尖らせてぷんぷんです。


「あきちゃんはどうする?」

「へ?」


 わ、ワタシも誘われましたぁっ! しかもクロ館長からっ! い、行っていいんでしょうかっ、幸せですぅっ!


「い、行っていいんですかっ!」

「勿論、遅くなるようなら帰りは送るよ」

「い、い、行きますっ!」


 わーいわーい! うれしいですっ! お酒は飲めませんが、一緒にご飯たべられるだけでうれしいのですっ。

 傘をくるくる回しながらワタシもくるくる回ります。喜びの踊りですっ!


「じゃ、みんなで」


 クロ館長の笑顔、素敵ですっ!

 雨の日は濡れるし歩きにくいしで、あんまり好きじゃないんですが、こんなに良いことがあるなら、雨の日大好きです!

 そうして、みんなでタンゴ亭に向かうのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る