ボーイ・ミーツ・ガールズ・アゲイン【稲谷】

「入田……お前はいつも呑気だったよな……なんで死んじまったんだよ……。」


俺はそんな言葉を漏らした。


入田が死んでから3週間と少し経った。これが最後に入田を見られる機会だ。

入田は今花に囲まれて眠っている。あいつが好きだったものも周りにあるはずだ。

入田の親戚、友人たちが集まっている。みな、静かに泣いている。ここにいる数は少ないものの、皆が悲しんでいる。


「本日は息子のために来ていただき、ありがとうございます。息子は…………」


入田の父親が話しているのだが、聞こえない。頭に入ってこない。入田が死んだなんて未だに信じられない。入田…………なんで死んだんだよ……。

あれこれ考えているうちに式は終わってしまった。

途中で入田の顔を見たが、あいつの顔は……笑っていたような気も、泣いていたような気もする。


式場を出た俺は1人式場から少し離れた喫茶店に行った。

ドアを開けるとカランコロンと音がして、店員が「いらっしゃいませー」と言った。

カウンター席に座った俺はホットコーヒーを1杯頼んだ。そしてまた一言漏らしてしまう。

「入田……なんで、なんで死んだっ……。」

泣いているところを誰にも見せたくなかった。俺は泣くところを入田にしか見せていない。……だからこそあいつを信頼していた。あいつの前でだけは泣けた……。

「注文のホットコーヒーです。」

「ああ……ありがとう……。」

一旦落ち着かねば……。店員が持ってきたコーヒーを飲む。

そして俺の頭は冷めていった。そして、覚めた。

そして思考する。やっぱりあいつは殺されたんじゃないか?そして思い出す。入田が殺されてから2週間経った日のことを。


『調査の結果ですが、入田さんがなぜ死んだのか、他殺なのか、全てが不明でした。ただ、彼が死んでいることだけは事実です。』

『嘘だろ?なあ、刑事さん……あいつの死因がわかんないのか……?そんなわけないだろ……?』

『稲谷さん……これは事実です。ですが、必ず私たちが死因を突き止めますので待っていてください。』


俺から話を聞いた刑事さんが放った言葉は信じ難かった。いや、信じようとしなかった。死因がわからないなんてことあるはずない。なにか警察が隠しているんじゃないか?

そうだ。今日は4月6日だ。友人の結婚式に行くのは断ったから暇だ。あいつの家に行こう。あいつが俺に何を見せようとしたのか分かるかもしれない。

コーヒを一気にぐいっと飲む。少し舌を火傷したかもしれない。

だが、そんなことよりも入田が何を見せようとしたのか気になってきた。


「すいません。支払いお願いしてもいいですか?」

「はーい、少々お待ちください。えっと、670円です。」

「700円で。」

「お預かりいたします。30円のお返しと、レシートです。ありがとうございました。」

「ありがとう。」


金を払って店を出た。今すぐ行こう。あいつの家は……ここから20分だっけか?

とにかく急ごう。


道のりの半分を過ぎたあたりで角から出てきた綺麗な人にぶつかってしまった。


「すいません!大丈夫ですか?」

「あ、こちらこそすみません……って、もしかして稲谷くんですか?」

「え?なんで俺の名前を知ってるんですか?」

「なんでって、だって私はあずまですよ?」


東……。この女性はそう名乗ったのか?

東。彼女は俺と入田と高校の頃仲が良かった。だが、今の綺麗なイメージではなく、昔の東は地味だった。同一人物とは思えなくもないが、こういうこともあるのか。


「あの、稲谷くんも入田くんの家に行くんですか?」

「そうだが、もってことは東も行くのか?」

「はい、でも、私だけじゃなくて」

「あっずー待ってー!」

「言おうとしたけれど、来ましたね。」

「あれ?あっずー、そっちのは誰?」


奥から走ってきたのは桑田くわただった。

桑田。彼女もまた俺や入田と仲が良かった。誰にでもあだ名をつけるようで、俺は「いなった」、入田は「いりった」と呼ばれてた。東の親友でもあるみたいだったな。昔も今も同じで、ザ・モテそうな女性って感じがする。桑田はほとんど変わっていないな。


「桑田、俺だよ、稲谷だ。」

「稲谷……いなっただ!懐かしいねー!」

「くぁちゃん、稲谷くんも入田くんの家に行くところなんだって。」

「いなったも呼ばれたの?」

「ああ。あいつが死ぬ前に電話でな。」

「私たちもそうなんです。入田くんが見せたいものがあるって……。」

「でも、いりったはその前に死んじゃって……。」

「で、気になるから来た、ってことか。」


東と桑田は頷いた。やっぱり入田は何かを見せようとしていたんだ。

3人を呼んだってことはやっぱり大事なものなんだな。一体何を見せるつもりだったのか。

俺たち3人はそんなことや昔話をしながら入田の家へと向かった。


⚫︎⚫︎⚫︎


5/3


あと2週間もすればあの装置が完成する。一度だけ試してからあいつらに見せよう。そうだな……少し早いがあいつらに連絡を取るかな。


「おーい!いなたにー!一ヶ月後……6月の4日って空いてるか?空いてたら俺の家に来てくれよ!そろそろ完成するんだ!…………え?行けない?おいおい、冗談はよせやい。え?マジで来ないの?その日は友人の結婚式……?それなら仕方ないな。じゃあ、6日以降に来てくれや。じゃなー!」


残念だが稲谷は6月の4日には来れないらしい。

仕方ない、後の2人にも連絡を取るとするか。

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全ては天才の頭の中で。 石水 灰 @ca_oh21

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