1ページ目 理想のクラス
教室の扉を開けると、すでに何人かの生徒たちがいた。談笑している二人、一人机でクラス分けの紙を見つめている者、それぞれである。教室の窓からは群青色の空の下で桜が舞い散っている。黒板には「入学おめでとう」の言葉とともに見事な黒板アートが描かれている。入学するには悪くない日だと俺は思った。
黒板にマグネットで掲示されている座席表を見て俺たちはそれぞれ席に着く・・・のだが。俺には言わなければならないことがある。
「それで、その理想の高校生活実現作戦実行のために具体的に何するんだ?」
「え?うーん・・・悪ぃ。まだなんも考えてねぇわ!」
大介はあっけらかんとした態度で答えた。こいつ・・・言い出しっぺのくせになんも考えてないのかよ・・・。まぁこいつらしいが。
「そうね・・・。具体的なことは入学式とか今日のことが終わってからにしましょう」
碧が俺の方を一瞥して言った。
「まぁ、それもそうだな」
俺はそんな言葉とともに軽く首を縦に振って首肯した。その後俺たちは各々の席に座った。
それからしばらくして俺たちは教室に入ってきた教師の指示にしたがって廊下に並んで体育館の式場へと向かった。俺、名前が葵だから先頭なんだよな。体育館入るとき目立つじゃねぇか、クソっ。まぁ、まだ身体測定とかしてねぇから仕方ねぇけど。そんなことを心中で毒づきながら大勢の保護者や来賓の拍手を浴びながら自分のパイプ椅子へと座った。あー早く終わらねぇかな・・・。
式は予想通り退屈なものだった。高校でも校長の話って長いのな。けどその間に「今日やるアニメ何があったっけ」とか「今週発売の新刊の内容何だっけ」とかいうことを考えてたからある意味退屈ではなかった。一周回って楽しかったまである。うん。
体育館を出て教室に帰還した俺たちは式で発表された担任が来るまで俺の席で雑談することにした。いやされたんだわ。なんか教室戻ったら大介のやつが「作戦会議、しようぜっ!」とか言い出したんだわ。何だよ、作戦会議って。いや内容は想像できちゃうんだけどよ。そんな「サッカー、しようぜっ!」みたいなノリで言われてもな。その後半ば強引に碧と緑谷を俺の席まで連れてきたってわけだ。
「まずは俺たちの組織名・・・いやグループ名?考えようぜ!」
「いや何だよ組織名って・・・なんか中二病感がするからやめろ。かといってグループ名はアイドルみたいだな・・・」
俺は大介の言葉にため息を吐きながら言った。
「そうね、どこかの誰かさんは本当に中二の時まで中二病を患ってしまっていたものね・・・」
碧のやつがそんなことを冷笑とともに言いやがったので速攻で口をふさいでやった。あぶねぇ。他の生徒らがいる前で危うく俺の黒歴史を暴露されるところだった。全く・・・油断も隙もない。
「ま、まぁ葵くんの黒歴史はともかくとして、何か名前があった方が面白いかもね」
緑谷が苦笑交じりに言った。黒歴史を置いといてくれたのはありがたいんだけど、絶対引かれたよな・・・。おのれ・・・碧のやつめ。
「へっ、そこの完璧優等生サマはさぞ高尚な名前を考えついてくれるんだろうな」
俺が皮肉げに頬を吊り上げてそう言うと
「私は別に完璧ではないわ。この世に完璧な人間なんていないもの。まぁそれはともかくとして。理想の高校創造委員会なんてどうかしら」
俺は声を出して笑いそうになるのを必死で堪えた。お前、高校そのものを変える気でいるのかよ・・・。努力の方向性が違うんじゃねぇか・・・?
「『俺たちで作る高校生活の会』なんてのはどうだっ!」
大介の案は無視された。悪い。俺も無視しちゃったよ。いかにも体育会系のやつらが考えそうな名前だもんな・・・。
「じゃあ・・・『花の高校生活実現しちゃおうの会』なんてのはどうかな?」
緑谷が照れ臭そうに案を出してくれた。いい!可愛い!いやかわいいってのは案の方だからな。断じて「緑谷が」というわけではない。悪くないんだが、どうにも長ったらしい。俺がうなっていると
「何やら不服そうね。そういうあなたは一体どんな案を出してくれるのかしら?」
碧が俺の方を見て冷たい微笑をたたえて言った。
「じゃあ『理想の高校生活実行委員会』でいいんじゃないか。略して『
「悔しいけど、あなたにしてはスマートな案じゃない」
「うん、理高会っていうのはいい響きだと思うよ」
碧と緑谷が首肯し、大介もうんうん首を縦に振っている。
「よし、決定だっ!じゃあ明日までに各々ルーズリーフに理想の高校生活に必要なもの、具体案を書いてくれ。思いつくだけだぞ?以上っ、解散」
「お、おいちょっと待て・・・」
「分かったわ」
「うん」
俺だけ大介の一人歩きを止めようとしたのだが、解散のタイミングでちょうど担任が入ってきたので仕方なく座った。タイミング悪ぃな、クソ・・・
「えー明日から一応授業始まるからな。用意忘れるなよー。あとクラス委員や委員会決めもするから考えておくように。以上ー」
俺たちの担任は30代半ばくらいのダラダラした口調の男だった。授業眠くなりそうだな・・・。大量の書類やらプリントやらを
「で、具体的には何をやっていくんですか?実行委員長」
俺は大介の方を向いてそう切り出した。
「俺が実行委員長!?まぁいいけどよ。」
いいのかよ。こいつホントいいやつだよな。大事にしてやらねぇとな。
「俺が用意したこのルーズリーフ、ざっと100枚くらいはあるかな。これにこれから実現したい高校生活のテーマとその方法をとりあえず書いてきてくれ!そのあと書いたルーズリーフを一つにまとめて本みたいにするってわけだ!」
ほーん。まぁこいつにしてはよく考えてるな。
俺たちは三人ともうなずく。
「明日クラス委員と委員会決めがあるだろ?最初のテーマは『理想のクラス』ってことでいいか?」
「まぁ妥当なところじゃねぇの」
「ええ、そうね。分かったわ」
「うん!」
大介の言葉に俺は気だるそうに、碧は長い髪をサッと払いながら華麗に、そして緑谷は元気よく返事をした。今日はこれで解散となり、俺たちは教室を後にして昇降口から外に出た。理想のクラス・・・ねぇ。
すでに太陽は空高くを上っており、時間にして正午を過ぎようとしていた。
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