俺たちは青い空の下で青臭く笑う

蒼井青葉

プロローグ

 4月。俺、葵知一あおいともかずは幼なじみで家が近い松山碧まつやまみどりと一緒の高校に進学することができた。碧は中学ではクールでスポーツ万能、成績優秀の人気者として有名だった。煌めくような長い黒髪や端正な顔立ちも相まって男子から絶大な人気を誇っていた。きっとそれは高校でも変わらないだろう。しかしこいつに幻想を抱いている男子連中はこの完璧美少女の本当の姿を知ったときには幻滅するかもしれない。俺のような付き合いが長い男はもちろんこいつの本性も知っている。


「おい、俺たちの存在を忘れるとはひでぇな!」

「そうだね。なんだかんだで付き合いも長いのに・・・」


 ああ、そうだった。こいつらもいるんだった。最初に抗議してきたのは小学校からの腐れ縁の青山大介あおやまだいすけ。こいつはとにかく暑い。暑苦しい。小学校からバスケをやっており、中学ではエースだったくらいのプレイヤーである。誰とでも分け隔てなく接する性格のいいやつなので暗めの性格である俺とも友達になってくれた。しかし、暑苦しいんだよ・・・肩組んでグイグイしてくんな。

 そしてこいつの次に控えめながら異議を申し立てたのは緑谷若葉みどりたにわかば。彼女もまた小学校からの付き合いであり、同じ本好きということで知り合った。小、中学校では俺と図書委員をやっていた。緑谷は碧のような誰からも好かれる人気者というほどではないがひっそりと春に芽吹く若葉のように穏やかに包み込んでくれるような性格で彼女と知り合った子たちから少なくない人気を博していた。高校でも変わらないだろう。けどね、こういう子に限って怒ったとき怖いんですよ?ホントホント。どのくらい怖いかって?気づいたらいつの間にかナイフで首筋を切っている暗殺者くらい。もしくは秘孔をついて敵を殺す北斗神拳の継承者くらい。


 今俺たちは大勢の新入生がいる昇降口の前でクラス分けの紙を受け取り、教室へ向かおうとしているところだった。俺はさっきの二人に気になっていたことを聞いた。


「ところで、お前らはクラスはどこなんだよ?」

すると二人が口元を緩ませた笑みをもって答えた。

「俺は1年F組だぜ!」

「わたしもだよ。二人も一緒だよね!また一年間よろしく」

その言葉に碧が返事をする。

「うん。よろしくね、緑谷さん。しかしこの根暗で本好きの誰かさんや暑苦しいだけのバスケ星人とまた一緒とは・・・」

そう言い放って頭痛をこらえるようにこめかみに手を当てた。そう、碧は普段の優等生然とした姿からは想像できないかもしれないが毒舌を吐くタイプなのだ。俺は頬を引きつらせて、そして大介は猛烈に反論した。

「俺の性格はデフォルトで、なんなら本好きもだ。きっと俺は生まれた瞬間から本が好きだったに違いないな」

「暑苦しいだけじゃないし、バスケ星人でもねぇよー!俺、他にもいいところあるよな?なぁ?」


俺に顔を向けてくるが何も答える気はない。確かにいいやつなんだがな。だってそれを面と向かって言うのは照れ臭いだろ・・・。

そして大介以外の三人はともに笑いあった。俺は苦笑いのような笑みで、碧は顔を俯かせて隠しながらもクスクスと、緑谷は穏やかな笑みで。本当に、心から、いつまでもこうしてバカやって笑いあっていたいとこの時俺は思っていた。


 教室へ向かう廊下の途中で大介がこんなことを言った。


「高校生活と言えば部活だよな!」


高校生活と言えば、ねぇ・・・。アニメや漫画、ラノベによくあるのは屋上でのひと時、急に美少女転校生が現れたりといったところだが、あいにく俺はそんな幻想は抱いていない。代わりにこんなことが口から出た。


「クラスにいるチャラチャラしたやつに絡まれたり、スクールカーストが横行してたり、文化祭の劇でやりたくもない役をやらされたり」

「例えが暗いね。」

「全く・・・。私のイメージは部活もあるけど、勉強ね。例えば毎日の授業の予習復習に追われたり、テスト前には遅くなるまで学校に残って勉強したり・・・」

「これだから優等生サマは・・・。勉強のことしか頭にねぇんだな」

俺は皮肉と苦笑いをもって言った。

「あなたのようなネガティブなことに頭を支配されている人に言われたくないわ。」

「そうだね・・・。わたしはクラスのみんなと楽しくおしゃべりしたり、体育祭や文化祭で盛り上がっている姿が想像できるかな。」

碧が反論し、緑谷は自身のイメージを語った。

すると大介は・・・

「じゃあ、俺たちで理想の高校生活を作り上げればいいんじゃね!」

は・・・?俺が思考停止していると碧と緑谷は言った。

「暑苦しいだけの青山にしてはいいこと言ったじゃない。理想を追い求めるために自らが努力する。それはいい姿勢だわ」

「うん、そうだね!わたしたちが力を合わせればきっとできるよ」

「おい、待てって・・・」

俺が力なく止めようとするも・・・

「じゃあ決まりだな!俺たちで最高の高校生活にしようぜ!!」


大介の言葉に碧はきれいな微笑で、緑谷は穏やかな笑みでもって肯定した。

ちょっと待て。何で俺がそんな面倒なことを・・・

俺だけ暗い気分で俺たちは教室の扉を引いた。


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