Step4-6 助っ人から習いましょう

〈さて、一通り説明も終わりました事ですし、私は帰りますわ〉

「そっかぁ」

 ダァヴ姉さんは情報集めがお仕事だもんね。ずっとここにはいられないか……ほんの少ししか話してないけど、寂しいなぁ。

〈たまに様子を見に来ますわ。テクトがちゃんと保護者をしているかどうか、確認しないといけませんもの〉

〈大丈夫だってば! もう!〉

 テクトがわぁわぁ両手を振り上げて、顔を真っ赤にしてる。テクトはダァヴ姉さんに対すると、途端に弟っぽくなるなぁ。可愛かわいいのう。

 って思ってたらテクトににらまれた。怖くないけど黙っておこう。

 意識をダァヴ姉さんに向ける。

〈最後に二つほど話してから帰りますわ。ルイ、箱庭の中を一周しましたが、疲労はいか程溜まりまして?〉

「うーん……あんまり?」

 子どもって無尽蔵に動いて動いて体力切れたらぱったり寝る印象があったから、今はその無限に動けるタイムだと思ってたんだけど……そういう風に言うって事は違うの?

〈洗浄魔法の詠唱破棄、体力上昇を鑑みても、あなたは加護によって全ステータスアップというスキル補正の恩恵も受けてますわ〉

「……ん?」

〈全ステータスアップとは、読んでそのままの意味です。身体能力をすべて底上げしますわ。聖獣は皆持ってるスキルですの〉

〈基礎ステータスの2倍程度だから、ルイはまだそれほどいい思いは出来ないだろうけど……あるとないとじゃ格段に違うよ?〉

 えっと。つまり、私は転生した意識持ちの特異な幼女ってだけじゃなくて、さらにステータスアップしてるパワフル幼女って事? 基礎ステータスは装備補正を含まないステータスだよね?

 私の基礎ステータスは知らないけど、仮に3くらいだとして、倍で6か。うん。多少のアップだけどないより全然マシ。

〈そうじゃなかったらモンスターに追い付かれるだけじゃなくて、囲まれて逃げ道なかったと思う。まあいざとなったら僕が結界広げてたけど〉

「ああー」

 昨日の逃走劇は加護の恩恵を受けてたから、幼女でもなんとかなったのかぁ。そりゃそうだよね。大人のベテラン冒険者を返り討ちにする強さを持つモンスターがごろごろいて、その中を5歳が素の力で逃げきれるわけがない。追い越されて先回り、とかされなかったもんね。この時点でおかしいって気付けてもよかったんだけど……無我夢中だったし仕方ない。

〈子どもらしからぬ身体能力は無闇に見せないように、私と約束してくださいまし〉

「うん。やくそく」

〈それから、人の前では必ず魔法の名を言う事と、詠唱はなくともしばしの間を持たせる事も覚えておくのですよ〉

「え……まほうって、えいしょう、いるんです?」

 私、洗浄魔法の時は何も言わなかったけど。ダァヴ姉さんも言わなかったからそんなもんだと思ってた。ちゆうっぽいことしないのかって、がっかりしたようなほっとしたような感じだったのに……あ、そういえば詠唱破棄ってさっき言ったねダァヴ姉さん。

〈本来はありますのよ。どのような効果をもたらす具象を起こすのか、想像する過程が特に大切ですから。呪文として言葉に出す事で意識を高めるのですわ。それに己の魔力を、発動する魔法の属性に練り上げる工程もありますのよ。高位の魔法になればなるほど、魔法発動までの時間は長くなりますわ〉

「なんと」

〈聖獣はそんなのいらないんだけどね。一瞬で出来上がっちゃうから。人は大変だね〉

 そんな聖獣クオリティの恩恵を、私は受けてるのかぁ。うん、すっごく便利だけど、バレないように気を付けよう。

〈それから、冒険者にアイテム袋の事は知られてもよいのですよ〉

「え!? で、でもこうかなまどうぐ、なんですよね?」

 高価なものってバレたら、しかも持ってるのが子どもだったら、簡単にれるからって襲われたりとか……

〈そのように低俗な冒険者は極一部ですのよ。ナヘルザークの冒険者は質の良さも有名です。ヘルラースのこの階層まで来る冒険者は実力者ばかり。すでに個人でアイテム袋を所持してますわよ〉

「なるほど」

〈テクトが隠すべきだと言っていたのは、数百年前……アイテム袋が創られた頃の話ですわね。あの頃はアイテム袋の総数が極少数しかなく、強奪などが横行しておりましたの。今はそういった事は少なくなりましたわ〉

〈そんな昔だったっけ〉

〈ええ、昔です。なにより、100階以降の階層を手ぶらで生活する子どもの方が気味悪く感じられますわ〉

 それは盲点だった。確かに怪しいわ。

〈テクトの目とテレパスならよからぬ事を考えている人など簡単に見抜けますわ。いんぺい魔法も使って、危険と判断したらすぐに離れなさいな〉

〈言葉と態度でだませても、心を読めばすぐわかるからね。そうじゃなくても悪い奴は魂でわかるし〉

「あ、せいじゅうのめって、たましいがみえるから、そういうのも、みわけるんだっけ」

 頼ってくれていいんだよ! と胸を張るテクト。もちろん、いっぱい頼らせてもらうからね!

〈これで必要最低限の事は話しましたわね。後は追々、テクトから聞いたり、良い冒険者から学ぶのがよいでしょう。後のお楽しみ、ですわよ〉

「はーい」

 そろそろ脳の許容量オーバーすると思ってたから、パンクしなくてよかった。次にダァヴ姉さんが来る頃には、この世界の常識を当たり前のように答えられるといいな。

〈勤勉な態度で大変よろしい。テクト、ルイを見習ってはいかが?〉

〈大きなお世話だよ!! もう帰って!!〉

 テクトにぷんすかされたダァヴ姉さんは、くすくす笑ってから突然消えた。テレポートはまだドキッとするなぁ!

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聖獣と一緒!~ダンジョン内に転生したからお店開くことにしました~ 時潟/カドカワBOOKS公式 @kadokawabooks

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