Step4-5 助っ人から習いましょう

 箱庭の規模をまずは確認しましょうか、という事で空間の端っこをぐるりと歩いてみた。ちなみにテクトは私の肩の上だ。可愛いのう。

 広さは学校のグラウンドくらい? テクトと暮らすならかなり大きい空間だ。花畑と聖樹さんが半分を占めてるけど、芝生側で十分足りるし。幼女の足で約20分。結構な大きさでしょう。

 それにしてもダンジョン内はしようにゆうどうの中みたいに涼しかったから、それに慣れてると箱庭のぽかぽか陽気で汗が止まらなくなったよ。今着てるのがながそでのワンピースだから調節がきかなくて……ランニングシャツみたいな肌着着てるからいいかと思ってまくり上げたら、ダァヴ姉さんに〈はしたない!〉って怒られてしまった。聖獣の前でもパンツさらしちゃダメらしい。カボチャパンツに恥も何もないと思うけど……激怒ダァヴ姉さんは怖いので言う事を聞こう。

 仕方なくうでまくりで我慢したけど、こっちで過ごすならはんそで、ダンジョンに行く時は上着を着る、とか区別しないと汗で冷えちゃいそう。カスタマイズしたワンピースのそでを落として、上着を買って……ここまで気を遣ってもらったのに引いたとか笑えないから、そこらへんの自己管理はしっかりしよ。

 花畑に興味津々な目を向けたら、この花達は常に生えてるのですよ、って説明された。花の種類は変わるけど、土地の魔力が豊富だから枯れる事がないんだって。土から抜いたりれば自然に枯れていくらしいけど、そのままにしておけばまさしく楽園のような光景が毎日見られるわけだ。なんてぜいたくだろう。

 ダァヴ姉さんは箱庭の中の不思議を次々に教えてくれた。

 世界と同じ時間を刻むこの空間では、太陽は沈むし夜は星空が見えるんだって。明かりがないから満天の星が見えそう。昼だけじゃなくて夜も楽しみだね。

 外と同じ朝と夜があるって事は天気も連動してるわけで、外で雨が降ればこっちも雨が降る。嵐は危険なので直接連動はせず、雨だけに抑えられるんだって。花や聖樹さんの成長促進のため、あと私が寒さで震える事が無いようにって、恒久的に温暖な気候を保つから雪は降らないらしい。風が緩く吹いてるのは、空気を循環させるために必要だからだね。

 ダンジョンへ戻るには、土の上にある壁を押せばいいそうだ。入った場所と同じ所に出れるらしい。〈ダンジョン側に人がいるかどうかはテクトが気配察知で確認してくれますわ〉って言われて思い出したけど、そういえばテクトは隣の部屋にグランミノタウロスがいる事に気づいてたもんね。あれは気配察知スキルを持ってたから出来たんだねぇ。隣の部屋って言っても細い通路をぐねぐね歩かされたから、壁の厚さはかなりあるだろうに。それでも察知しちゃうって事は、きっとそのスキルもチートなんだろうなぁ。知ってる。

 そうそう、〈雨が降りだしたら体が冷える前に聖樹の下に避難するのですよ〉と言われた。どうやら聖樹さんは、寄りそう命の一定の体温を保ってくれるスキルや、体調や傷を癒すスキルを持ち合わせてるらしい。慈愛に溢れすぎてない? 聖母なの?

 その聖樹さんと花畑の間に岩がいくつも重なった場所があるなと思ったら、岩の隙間から透明な湧水がこんこんと流れ出てた。しかも水が流れる先は広めのスペースがあって、滝のように水が落ちてはまってる。みずみとか洗い物とか、簡単に出来そう。あ、洗浄魔法があるから洗う事ないんだった……でもおは入りたいな。右衛もんくらい許される?

 岩場に降り立ったダァヴ姉さんが、こつこつとくちばしで岩をつつく。

〈こちらの水は空間内に引き込んだ水脈から、聖樹の根を通ってここに流れ出てきますので色濃く影響を受けていますわ。聖水並みの効力を発揮する湧水になりましたの。飲料水としてはもちろん、花の水やりにも使えますわ。まあ、この花畑は水脈から水分をとっているのでやる必要はありませんけれど、あなたが何か育成する際には使ってみてくださいまし。数千年は枯れませんから気にせずどうぞ。他にもアンデッド系モンスターに有効ですのよ。振り掛ければ簡単に倒せますわ〉

「せいじゅさんも、すごい」

 さらっと神様が水脈引き込んだとかトンデモ話聞いた気がするけど、そのすごさはこの空間を見てればよくわかる。神様には足向けて寝られないね。どこに住んでるかわからないけど。

 それに、水脈のお陰で聖樹さんも成長するんだとか。

 聖樹さんさらにおっきくなるんだね。私とは比較にならないくらい、のんびりゆっくり気の遠くなる時間を必要とするだろうけど。どれくらい大きくなるんだろうなぁ。

〈テントはありまして?〉

「うん。ぼうけんしゃさんの、アイテムぶくろのなかに、ありました」

〈テントを聖樹の枝の下に広げ、その中で眠るとよいでしょう。聖樹には心を鎮めると同時に安眠をもたらすスキルもありますのよ〉

「いやしけいスキルに、とっかしてますね」

〈それが聖樹だからね。だから人の間では大切にされてきたし、瘴気に触れないように徹底されてるんだ〉

「かれちゃうと、こまるもんね」

 あれ、でもこの空間には瘴気は入ってこられないんだよね? 聖樹自体に瘴気を防ぐ手段はないって事?

〈聖樹は癒しの性質ゆえに無防備なのですわ。争いを起こさせる気をなくすと言っても、その前に瘴気を含んだものを持ち込まれれば間もなく枯れてしまいますの。だからこそ、人の世では厳重に守られてますわ。この箱庭は、あなたを害するものは入れない仕組みだと伝えましたわね。聖樹が枯れるという事は、あなたの生活を崩す事。これも害する項目に見なされ、瘴気を含んだものも入れない仕様にしましたのよ〉

 って事はここの聖樹さんは、(何かする気は一切ないけど)私が変なことしない限り絶対に枯れないんだ。永久的安全スペースじゃん。安心して眠れるどころの話じゃないよ。この過保護感……まあ今幼女だもんなぁ。守ってもらわないと生きられないからありがたく受け入れよう。ここなら、モンスターの鳴き声におびえなくていいし。

 神様、私みたいなイレギュラーにも優しいんだなぁ。

「かみさまって、うっかりだし、くちわるいけど、やさしくて、きくばりじょうず、ですね」

〈ええ。うっかりですけれど、私達の愛すべきお父様ですわ〉

〈うっかりだけどねー〉

 うっかり連呼しすぎたかな? 神様今頃くしゃみしてるんじゃない?

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