Step4-3 助っ人から習いましょう

 ちょうどテクトに話し終わったダァヴ姉さんに、お礼を言う。

「すてきなとけい、ありがとう!」

〈喜ぶのはまだ早いですわよ〉

 ダァヴ姉さんは、にっこりと目を細めた。

 何か企んでるかのようなほほみを浮かべるハト……ダァヴ姉さん。テクトもそうだけど、見た目動物なのに表情筋が器用だな。

 もう色々教えてもらってすごくお腹いっぱいなんですけど。頭の中でゆっくりくだいて消化してる所なんですが……まだ何かあったりする? そろそろパンクするよ?

〈当たり前ですわ。あなたはまだ子どもですのよ。成長するにあたって、少なからず日光が必要でしょう?〉

「はあ……え、そとにでるつもりは、ないですけど?」

 ここに住むと決めた時に、太陽の光はもう見ないって覚悟したけど。

〈あなたがこの時代のこの場所に転生してしまった時点で、神様もダンジョンで暮らす事は承知しております。テクトがいるならば多少不便でも平和に暮らせるだろうと。勇者の遺産もありましたし〉

 あ、カタログブックの事だね。神様って私の様子見てるの? あ、見てるのね。どうやってか知らないけど、しっかりうなずかれた。

 確かに買い物には一切困らないなぁ。電気を使うタイプは取り扱ってなかったけど、衣食は絶対足りてる。お金稼げればだけど。

〈えー。自分が意識ありのルイを見過ごしたのは認めなかったのに?〉

〈それはそれ、これはこれ、ですわ。きちんとあなたという保護を施したでしょうに、テクトも根に持ちますわね……それで、健やかに成長できるようにとかぎをいただきましたの〉

「かぎって……どこかにへやをつくった、とか……?」

〈いいえ。部屋ではなく……まあ、見た方が早いですわね。先ほど渡した懐中時計のチェーンに鍵が下げてありますわ〉

 懐中時計を持ってチェーンを垂らすと、滑る金属音の後にアンティーク調な鍵がチェーンの先にぶら下がった。さっきは懐中時計と宝石に夢中で気付かなかったなぁ。どこの鍵だろ。アンティーク調だから、きっと扉も同じ感じで……

〈この鍵をどこでもいいので、壁に差してひねってくださいまし〉

「……ホワイ?」

 どこでもいいって……え、壁に? かぎあなは?

〈対の鍵穴はありませんわ。私の言った通り、やってみてくださいな〉

〈僕にはくれなかったのに……何でダァヴから?〉

〈あなたがけんごしつかみかかっていったのが悪いのでしょう。お可哀かわいそうに、反抗期なくて可愛かわいかったカーバンクルにめっちゃ怒られた……と落ち込んでましたの。私が様子を見に行くと言ったら、これを渡してくれって仰ってましたわ〉

〈ぐ、僕も悪いとは思ってるよ……ルイ。神様がくれたものなら大丈夫。信じてやってごらん〉

 なにそのエピソード。神様案外可愛いところあるじゃん。ダァヴ姉さんが神様の真似したからすごく上品化されてるけど、いやダァヴ姉さんの砕けた口調も可愛いな。っていうのは置いといて。

 やってみるよ? パントマイム素人しろうとな人じゃないからね? 何も起こらなくても笑わないでね? やるよ?

 鍵を持って、石レンガの壁に向かった。ごくん。なんか緊張でつば飲み込んじゃったよ……よ、よし。ゆっくり、うっかり鍵が折れないように、あまり力を入れずに差し込んでみた。

 すぽんと、壁が水になったみたいに入り込んでいく。ある程度入ったら、鍵穴にはまったように止まった。えええ!?

「は、はいった!? ええっ、なんで!? かべだよね!?」

 鍵を持ってない方の手で壁に触ってみる。冷たい石の感覚が直にきた。つめたい!!

 やっぱりなんの変哲もないただの壁だこれ!!

〈神様仕様って奴でしょ。さあ捻った捻った〉

「テクトかるくない!?」

 私すっごく驚いてるのに!! なんなのねてるの!? 自分が貰えなかったから!? 可愛いなもう! やるよ、捻ればいいんでしょ!!

 家の鍵と同じような感覚で、少しだけ力を込める。そうしたら、くるっと半回転して、錠が外れる音がした。え、どこから?

〈さあ、そのまま壁を押してくださいまし〉

「お、おすの!? かべを!?」

 今さっき、ただの壁だって確認したばかりなのに!! 鍵を捻ったらここらへん全部水っぽくなるとか? それとも沼? ええいわからん、押してみる! 壁に埋まったりしませんように!!

 鍵を差したまま、壁に両手をつけた。幼女の腕力で押せるのなんか、たかが知れてる、もしかして潜っちゃう? と思いきや壁はあっさりと奥へと押し出せた。はいぃ?

 一度止めて、元々の壁と今私がずらした壁とを見比べた。鍵を中心に、扉の形で押し込めたみたい。すごい、私の腕分ずれてる……

 このまま押すと、どうなるんだろう。さっきまで得体の知れない感じがちょっと怖かったのに、今はわくわくしてる。鼓動の激しい胸に手を添えて、呼吸を整えた……よし! 押そう。

 扉の壁は、そんなに力を入れなくても簡単に動く。壁と壁の隙間から、ばゆい光があふれてきた。

 すると突然、壁が消える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る