Step4-2 助っ人から習いましょう

〈その通り。カーバンクルが結界の性能を教えなかったせいでこのような弊害が起きますわ。わからない事や困った事などははっきりおつしやってくださいませ。カーバンクルは聞かれないと、己の知識の中の、何を求められているのかわからないのです。まともな人と接して来なかった弊害ですわね。子どもと接する事など今回が初めてですし。しかし私からある程度聞いたとしても、あなたにすべては伝えていないので難しいだろうとは思ってましたが……ここまでとは。まだまだ勉強が足りませんわね〉

 後半の鋭い声に、テクトがびくっと震えた。ダァヴさんが相当怖いらしい。私も背筋がぴんっとなる。ハト姉さん強い。

〈私から最低限、必要な事を話しますわ。いいですか? ちゃんと聞いて、覚えるのですよ〉

「はい!」

〈はい!〉



 そして教えられたのは、魔法とスキルの覚え方、聖獣の体の事、ダンジョンの事、時間の事だった。テクトは人の子がもろいのか懇々と教え込まれてる。その間に温かい紅茶を飲みながら複習しておこう。

 魔法やスキルは性質にもよるんだけど、基本的には見るだけで覚えるきっかけになるそうだ。誰かベテランの人が岩をどーん! と地面から生やすような魔法を使っているのを見た場合、土属性と攻撃の性質があれば地面から石ころを生やす事が出来るようになるらしい。覚えたては威力が弱いけど、何度も使い込めば使い込むほど強力になっていく。レベルアップしていくんだね。

 また、魔導器官の性質が前衛か後衛かによって、習得率もレベル上げのしやすさも大分違ってくるらしい。攻撃向きの人にもさらに分岐があるんだ……まあ私は戦闘向きじゃないから関係ない話だけどね。

 そしてなんと、ダァヴさんは洗浄魔法を使えた。この魔法、れいにしたいものなら何にでも使えるらしい。一般人だけでなく冒険者にも人気の魔法で、食器洗いも一瞬、おに入れなくても体は清潔に保てる、などなど。水や洗剤がなくても清潔を保てる、はんよう性ありまくりの魔法である。

 それを、ダァヴさんは私に見せてくれたのだ。ぜいたくにも、安全地帯の汚れをすべて落とすという大規模な方法で。私はそれをまじまじと見た。ダァヴさんが羽を広げて泡を出す所も、綺麗になっていくのも。じっくりさせてもらった。後は、わかるね?

 私が着てたつちぼこりの付いたワンピースと体は、覚えたての洗浄魔法で少しだけ綺麗になった。〈綺麗にしたい箇所を思いながら、水で洗い清める感覚で〉と言われて、服を着たままお風呂に入る感じ? と想像した。そうしたらなんと、出来てしまったのである! 水の泡が周りに出てきて、私に触れてはじけた途端、べたっと脂っぽかった所がすべすべに! 私も魔法使えたよ、今日から魔法少女ならぬ幼女!!

 上機嫌にテクトへ見せびらかしてた私を、ダァヴさんは目を瞬かせて愛しそうに細めてくれた。〈生活魔法に適している性質とはいえ、初めてにしては上出来でしてよ〉とお褒めの言葉ももらっちゃった!

 清潔にした後は一服した。お腹が空いたでしょう、と渡されたクッキーと紅茶をもぐもぐごっくん。すきっ腹に染み込みますなぁ。

 聖獣の事も教えてもらった。聖獣は基本、飲食睡眠をまったく必要としない生き物らしい。漂ってる魔力を取り込んで生命力にしてるからなんだとか。特殊な魔導器官を持ってるから可能らしい。どんなものも魔力に分解できるから、普通に食べる事も出来るし、私と同じ食事で大丈夫なんだって。それならこれからも一緒にしいもの食べようねって言ったら、〈またアップルパイ食べたい!〉と元気なお返事がきた。相当お気に召したらしい。まあ、私が大好きなお店のアップルパイだから、当然だね!!

 そういえば、〈聖獣の目はすべてを見通しますから、鑑定と同等以上の事が出来ますわよ〉とも教えられて、目からうろこだったなぁ。鑑定は特に冒険者や商人が持ってるスキルなんだとか。目利きってやつだね。アイテム拾ったら見てもらおう。あ、未知の食べ物と出会ってしまったら、食べられるものかどうかも確認してもらおう。

 聖獣の事で、あとは……加護だ。神様がテクトを遣わせた時点で、私にはテクトの加護がついてるらしい。常時結界とか、テクトが持ってるスキルの影響があったりとか。そういうのも加護に含まれてる。ずっと結界をかけ続けてるのかと思ったけど、加護の効果で24時間365日状態なんだね。道理で洗浄魔法の時はキラキラのエフェクトがあったのに、結界は突然私とモンスターの間に透明な壁が発生した感じだなって思ったよ。

 加護は一定日数離れているとなくなってしまうから、加護持ち=聖獣が傍にいる=勇者って法則が出来てるらしい。これもバレちゃいけない禁則事項だね。〈もはや伝説ですから、本当に加護があると信じる人はいないでしょうけど念のため〉だって。

 私に授けられた加護の結界は大きさをいじる事はできないけど、テクトの結界魔法は形もサイズも自由自在。テクトの意思で簡単に変えられるらしい。モンスターを押してったのも、廊下にぴっちりサイズを合わせて、奥へ奥へと広げてったんだって。見えない壁にどんどん押されて、モンスター達は訳がわからなかっただろうな。うん。

〈そういえばカーバンクルの事をテクトと呼んでいるのですね〉

「あ、だめでした? かみさま、おこります?」

〈いいえまったく。悪い事など何もありませんもの〉

 きずなが強固になればなるほど加護の効果が強まるそうで、〈積極的に仲良くなってくださいまし〉とむしろ勧められた。

〈加護の重複は出来ませんが、私にもつけてもよろしくてよ?〉

「ねえさんって、よびたいです」

 秒で返したよね。鈴の鳴るような声で〈構いませんわ。これからよろしくお願いしますわね、可愛い妹さん〉って返された時は、思わずガッツポーズしちゃったよ。

 それから、このダンジョンはナヘルザークの都市郊外にあるんだって。きちんと統治されてるから治安はいいんだけど、フォルフローゲン筆頭に怪しい奴らが潜入してるそうなので、ダンジョンからはあまり出ない方がいいみたい。〈街中ですと不特定多数に存在を認知されますし、誰が侵入者かわかりませんわ。いんぺい魔法を使うにしても、買い物は隠れたまま出来ませんでしょう?〉って言われれば、なるほどなー、だよね。やっぱりダンジョン内が安住の地なんだなぁ。

 このダンジョンの名前はヘルラース。巨大な地下迷宮で、階層は136ある。ふっかいな……ちなみに私がいる階層は108。煩悩の数でしょうか。人間とは切っても切れない数だ、仕方ないね。私欲深いからね。

 結構深い場所だとは聞いてたけど、もう少しで最下層とは思わなかったよ……そういえばベテランの冒険者パーティは最下層を目指してるんだっけ。最下層には何があるんだろうか。〈そこまで教えてしまっては、面白くないでしょう?〉って内緒にされたけど。行く事はないだろうし、ちょっとくらい教えてくれても……まあいいか。大変な栄誉を得る、って曖昧なのは聞いたし。

 最後は時間。地球と同じ24時間だけど、午前午後がないから12時の次は13時って数えるんだよね。24時間表記だ。

 時計も貰った。アイテム袋以上に高価だから、絶対に人に見られないように! って注意と一緒に渡されたのは、お洒落しやれな懐中時計! 長いチェーン付きで、ふたがないオープンフェイスタイプ。白銀のカバーの真ん中に短針、長針、秒針がついてる文字盤部分。時間を示す数字も大きめで見やすいし、なんと、午後になったら文字盤の1から12が13から24に変わるんだって! すごくファンタジーだ! 魔導具だから、空気中の魔力を吸いとって原動力にして正しい時刻をずっと刻んでくれるらしいし、ダンジョンにいても朝か夜かわかるんだね。すっごい高性能!!

 しかも懐中時計とチェーンの間にくっついてる白い宝石が綺麗なんだよねぇ。親指の爪くらいの大きさで、涙の形してるんだけど、揺らしてると黄色い炎がきらめくんだ。

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