Step4-1 助っ人から習いましょう

 私が目を覚ましたら、テクトがハトに怒られていた。

 まったくもってわけがわからない。何事、である。何だろうこの可愛い生き物達は……あ、異世界に転生したんだった私。なんて、ボケッとしてる場合じゃないよ。

 テクトが入れてくれたのかな? ほこほこ寝袋から抜け出た私は2匹……二人? をまじまじと見る。私に向けられてテレパスを使ってないからか、二人が何を話しているのかはわからない。鳴き声の無いテクトがどう見ても「反省してます」って感じで落ち込んでるのに対し、怒りのオーラっぽいのを背負ったハトが「クルッポ! クルルゥウウ!」と荒ぶる鳴き声を向ける。不思議きわまりない光景だけど、モンスターの怖さに比べたら平和な日常に見える。私はどうも、この世界に1日で順応し始めてるみたいだ。我ながら驚きである。

 寝ぼけた頭を働かせて考えたのは、聖獣であるテクトが殊勝な態度を見せるって事は、あの真っ白くて小さなハトは、ただのハトじゃないんだな。たぶん動物系の聖獣なんだろうな、っていう事だ。絵面は可愛くて和やかな図なんだけどね。とりあえず、あいさつしようか。

「おはよう、テクト」

〈っ! ルイ! おはよう!!〉

「クルル!! クルポォ!!」

 ハトに向けてた落ち込み顔をぱっと明るくさせて、テクトがこっちを見上げる。「助かったー!!」って顔に書いてありますよテクトさん。ハトの表情がもう一段階怒りを上げた感じになったよテクトさん。

〈カーバンクル! あなたこれで話が終わったと思わないでくださいまし!! まだまだ言いたい事がありますのよ!!〉

 お、ハトの声かな?「クルッポー!」と高い鳴き声と一緒に、若い女の人の声が頭に直接聞こえてきた。お上品な感じだなぁ。これはハトさんと呼ぶべき。ハトさんにもテレパススキルあるんだねぇ。お嬢様のような口調で、今は怒ってるからとげとげしいけど、頭にキンキンしないから本来は優しい声なんだろうな。

 テクトは嫌そうに私の背後に隠れた。え、何? 可愛いな。

〈まったく……ルイ、でしたわね。あなたには苦労をかけます。神様の不注意、カーバンクルの鈍感さには私から謝罪いたしますわ〉

「あ、いえいえ」

 おお。やっぱり柔らかい声だった。昨日一日はとうの流れ過ぎて、テクトの鈍感さはまったくわからないけど、神様の不注意に関しては全面同意します!

 ハトさんがハトらしからぬ動きで頭を下げる。

〈私はダァヴ。神に仕える聖なる獣のひとはしらですわ〉

「ごていねいにどうも。わたしはルイです」

〈ふふ、愛らしい方ですのね。カーバンクルが懐くのもわかりますわ〉

 あ、愛らしいって……なんか照れるなぁ。おっと、テクトに足をぎゅうっとされたので気を取り直して。

 やっぱりハトさんは聖獣だった。ダァヴって確か、白いハトって意味だよね。公園にいるハトじゃなくて、平和の象徴の方の。

 動物の聖獣って事は、情報収集が得意なんだ。テクトが情報担当って言ってたのはダァヴさんの事かな? 思った瞬間にダァヴさんがうなずいた。

 あなたも人の心読めちゃう系チートテレパスなんですね。さすが聖獣、基本がチート。

〈ごめんなさいね。心をのぞかれて、いい気分にはならないでしょう?〉

「テクトでなれたんで、だいじょうぶです」

 今度から聖獣=読心される、って思っておけば驚かなくて済むし。

〈あら、寛容ですのね。しかし、そう何度もカーバンクルの鈍さを許してはなりませんわ。この子は多数の人と接する機会が少なく、また痛みにも鈍いためかなり鈍感ですの。優しい子ではあるのですけれど、通用するかは別問題。人の子であるあなたには苦労をかけているのではないかと心配して見に来たのですが……〉

 ダァヴさんが私の後ろを覗き込む。にらんでらっしゃるけど、テクトは見ない振り……出来てない気がするけど。本人は必死に隠れてる。

「テクトには、いろいろ、おしえてもらってましたけど……」

 魔力の事とか、魔法の事とか、魔導具とか、聖獣の事とか……わたしの現状とか? 気を付けないといけない国とか、ダンジョンの事とか……後は、結界で守ってもらったり。これ一番大事。

〈魔法とスキルの覚え方は?〉

「へ?」

〈時間は? 時計の有無は? ダンジョンの名前は? 階層は? 聖獣の目の詳細は? 食べてはいけないものの有無は? 生涯を共にするにあたって授ける加護については? また、あなたが幼児である事による最低限の休息時間や食事の必要性は伝えまして?〉

「えーっと……」

 な、なかったかなぁ……

〈また、魔物を放置して一人にされると大変心細く寝て待ってなどいられないと、はっきり言いましたの?〉

「いってない、です……」

 昨日は眠くなっちゃったから、性質の話をして、聖獣の存在がまゆつば扱いされてる話しかしてなかったな。たぶん……寝落ちたから記憶があいまい

 っていうか、すごいな。その場にいたわけじゃないのに私の気持ちバレとる。ダァヴさんやばい。

〈やはり……カーバンクル。神様に対して怒るのも彼女をおもんぱかるのも、あなたの優しい心故の行動で私はとてもうれしく思いますが、少々配慮に欠けましてよ〉

〈……う、うん〉

「あ、いや、テクトを、あんまりせめないで、ください。わたしのために、いろいろ、がんばってくれたんですし」

 慌ててそう言うと、ダァヴさんは今度は私を睨みつけた。な、何で!!

〈モンスターをそばに放られたままで怖かったでしょう? まだこの世界に慣れてないあなたに、その状態で長時間待ってろとは配慮に欠ける行為ではありませんの?〉

「は、はい!」

〈石畳へじかに寝かせておく事も大問題でしてよ。私が言わなくては寝袋はアイテム袋の中に仕舞い込まれたままでしたわ!〉

「はい、ねぶくろありがたかったです!」

 ぐっすり寝られました! 寝起きも快適でした!!

〈あなた、昨日は何を食べましたの?〉

「あ、アップルパイ……」

〈ホールで?〉

「……ひときれ、です」

〈まあ!! 成長期にそれだけではまったく足りませんわ!! カーバンクル、子どもはきちんと三食食べてぐっすり寝る事が一番大切だと、私言いましたわね!! あなたも頷きましたね、体力なくなったら寝るんだねって!! まさかルイが勝手に寝入るまで放っていましたの!?〉

〈ごめんなさい!!〉

〈謝るだけなら誰でもできましてよ!! もう一度言いますわ! 人の子は主食にお野菜と肉や魚などバランスの良い食事を一日三食、早寝早起き昼寝付きが原則ですわよ!! 我々聖獣とは比べるまでもなく、毎日、毎日ですわよ! 食事を必要とし、少ない体力を駆使して動き、徹夜などもっての外!! か弱い命なのですよ!!〉

〈ごめんなさいぃいい!!〉

「ご、ごはんをかうためにも、たんさくしようって、わたしが、いいだしたんですダァヴさぁああん……!」

 いつの間にか背後から出てきて隣に座るテクトと私がそろって正座して、ダァヴさんに叱られる。ふぉおおごめんよテクトぉおお。私が考えなしだったせいでぇええ……

 ダァヴさんは並ぶ私達を見て、肩を落とした。沸騰したテンションが落ち着いたらしい。優しい声で語りかけてくる。

〈あなたはカーバンクルに遠慮しすぎですわ。自分のために、とか、自分のせいで、と思う気持ちはわからなくもありませんが、この子を預かるのはあなたの正当な権利です。気に病む必要はありませんわ。それに、一生共に過ごすというのに遠慮は無用ですわよ。どこか行くならばそこのモンスターを何とかしてから行け、くらい言っても亀裂になどなりませんわ。モンスターを遠くへ押し出すくらい、カーバンクルには造作もないことなのですから〉

「はい!……はい?」

〈あなたを寝袋に入れさせてから、即刻させましたわ〉

 と言われて気づいた。廊下にモンスターがいない! ハトの鳴き声しか聞こえないなと思ったら!! 結界を広げてどんどん押してったのか、結界で囲んで押し込んだって事? 形変えられるんだね、結界。

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