Step2-2 保護者と仲良くなりましょう
よくわかってない様子なので、現代人ならではの感覚なんだなぁと再確認した。って事は、この魔導書を作ったのは、地球の現代を生きた勇者だったって事だ。どれくらい昔の勇者かわからないけど、時間背景どうなってるんだろう。
〈ルイと同じ時代の人が
「そっかぁ、ファンタジーだなぁ」
すごく宇宙的な話っぽくて、ついファンタジーで済ませてしまった。素敵な言葉だよね、ファンタジー! そんな事を考えつつ、銅貨を一つ、開いた魔導書の上に載せてみる。直後、音もなく銅貨が消えた。
そしてチャージ残高は、
──6,670ダルあります。
「おお! 100ダルふえた!!」
〈銅貨1枚分チャージできたってこと?〉
「うん! つぎ、つぎはかいもの、してみよう!」
無事買えたとして、どこに届くんだろう。そしてどれだけの時間がかかるんだろう。迅速にってあったけど、そこらへんも気になるよね。ふうぅ……ドキドキするう!
〈買い物ができるの? これで?〉
「やってみなくちゃ、わかんないよ! とりあえず、ひらべったいさらと、ちいさいフォーク!」
言った途端にページがパラッとめくれる。すると浮いてる電子画面が変わって、色んな柄や素材の皿とフォークが画像付きで出てきた。え、何その細部に
画面の見た目は、まんまネット販売サイトのそれ。操作はスマホ式でスライドして次のページに行ったり戻ったり。気になる商品をタップして詳細を出してもらったり。購入する数は+と−で選べるみたい。見やすさ操作しやすさ重視って感じでとても助かります。
お、百均の紙素材もある! ってことは、日本製品を取り寄せてるって事だ! なんて素敵な品揃え! 過去の勇者は神か!
カーバンクルにも画像は見えるようで、気になる皿を選んでもらう。私が選んだ赤色と、緑色で縁が塗られた皿を1枚ずつカートに入れる。ペアですよ、ペア。にひひ。
〈妙に
「おんなのこの、さがってやつなのかな。なかのいいこと、おそろいのどうぐを、かうのって、うれしいんだよ」
〈僕らは今日会ったばかりだけど……〉
「これからよろしくっていみだよ!」
困惑した様子のカーバンクルの手をぎゅっと握る。これからずっと一緒にいてくれるのに、仲良くしないわけがない! 私は積極的に親しくしていくつもりだからね!
よーし、次は食べ物! それはもちろん!
「アップルパイ!」
満面の笑みで言った後、ひとりでにページがめくれる。画面に映ったアップルパイ達に目移りしちゃう! うああん、どれもいいなぁ!! あ、これは私が好きなパン屋のアップルパイ! バターが香るサクサクパイ生地に、しっとり甘いカスタード、大きめにカットしたリンゴがしゃくしゃく食感でたまらないんだよねぇ! これにしよう!
二つカートに入れて、ふと思った。
「そうりょうは?」
──使用者の魔力に依存します。購入した荷物の総量が重いほど、魔力が消費されます。
「どこにとどくの?」
──購入した商品は使用者の足元に転送されます。
「そうりょうむりょうの、たくはいびんとか、ほんと、げんだいしようだね……!」
ええい! 今は幼女な私でも、おやつセット分の送料くらいの魔力はあるはず! いくぞー! 購入ボタンをぽちっとな!!
──980ダル引き落とされました。商品を転送します。
ナビゲーションの声に思わずガッツポーズする。
買えた! よし! 後はどれだけの時間で届くか! 迅速っていうからには数分? 数時間?
ドキドキしてたら、突然目の前にぽんっと気の抜ける音がした。ちょっと視線を下げると、茶色い四角の箱。現代人ならよく見るそれ、段ボール箱が鎮座してた……って待って!!
「はやくない!? びょうそくだよ!?」
〈次元飛んでいきなり出てきたねぇ……〉
カーバンクルも驚いてるみたい。聖獣も驚く魔導具作るとか、勇者すごいな。むしろハイテクな地球への執念がすごいのかな?
恐る恐る近づいて、開けてみる。テレポートするみたいに届いたからか、ガムテープがついてない。簡単に開けられた。
中には、私が頼んだお皿とフォークが包装紙に包まれていて、さらにケーキを入れる真っ白いお馴染みの箱。おおお!!
「かえてる! ちゃんと、かったものが、とどいたよ!! すごいよカーバンクル!」
マジでネット通販だよ! いや名前の通りならカタログ通販だ!!
〈うん。びっくりしたよ……勇者って結構、規格外なんだね〉
「それせいじゅうが、いっちゃう? とりあえず、たべてみようよ!」
簡易作業台を組み立てる。ちょっと手間取ったけど、ちゃんとまっ平らにできた。対面にお皿とフォークを添えて、真ん中に白い箱を置く。開けるとふんわりバターの香ばしくあまい香りが漂ってきた。幸せな気分になるなぁ。お皿に一つずつ取り分けて、赤い皿の前に座る。ちょっと背丈足りないから、作業工具
さあさあカーバンクル! 反対側に来て! あ、椅子あるよ! 寝袋だけど高さちょうどよさそうだね!
〈……食べられるの? これ〉
「それを、これからしらべるんだよ。ちゃんとおいしかったら、わたしのダンジョンせいかつは、まもられたもどーぜん!」
〈ふうん。まあ、どこで生活しようが、ルイがいいなら僕に異論はないけどね〉
これがアップルパイか……としみじみ
フォークを刺すと、サクッと音がした。この時点で期待値振り切った! 食べられるかどうか観察しようと思ってたけど、無理! 我慢できずに一口、ぱくりと頰張る。
「んん~~~!!」
大きなリンゴのシャクシャク食感も甘さも、それを邪魔しないほんのり甘いなめらかカスタードも、しっかり焼けたパイ生地も、全部が最高!! 口の中で幸せが
ふと前を見ると、フォークを握りしめたカーバンクルが、アップルパイを突き刺してかぶりついていた。おおう、見た目と穏やかな声とは裏腹にワイルドなお食事風景。
カーバンクルのふわふわ
〈
「でしょ!」
〈ルイが幸せな気分になるのもわかるよ。今まで食べたどのお菓子より美味しい!〉
「ほんと? やった!」
美味しいものを一緒に、美味しいって言いながら食べられる。それって一緒に暮らしていく上で、大切な事だと思う。だから本当によかった。
あ、カーバンクルが照れた。自分の心が読まれてるってわかっていても嫌な感じがしないのは、この子が表情を出してくれるからなのかなぁ。
二口目のアップルパイを頰張る。
「んー!! しあわせぇ!!」
勇者が持てる知識と思い出を総動員して作っただろうカタログブックは、今の私にぴったりの魔導具だ。ありがたく、使わせてもらおう。
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