Step2-3 保護者と仲良くなりましょう
幸せな時間をたっぷり堪能した後、アイテム袋に出したものを片付けていく。一個一個、しっかり確認しながら。何の道具が入っているかわかってれば、また取り出す時に楽だからね。
カーバンクルはその傍で、私が洗った食器を手に取ってまじまじ見ていた。尻尾をふりふりして、上機嫌っぽい。
水がアイテム袋に入っていたから汚れは洗い流せたし、新しい
「カーバンクル、ずっとさらを、みてるけど……きにいった?」
全部片付け終わっても、カーバンクルはまだ皿を見ていた。小さいデザート皿だ。200円にも満たないお手軽なお皿。レンチン出来るから、いつも愛用してたのと同じシリーズ。カーバンクルがこれを選んでくれた時は、顔がにやけたなぁ。
彼は皿から顔を上げて、私を見る。緑の目がきらきらしてた。
〈僕ってさぁ、聖獣でしょ?〉
「せいなるけもの、ってかいて、せいじゅうだね」
読み方はさっきカーバンクルに教えてもらった。
聖獣は不老不死。一匹一匹神様が手ずから創った生命で、同じ姿のものはいない。よく見慣れた動物もいれば、伝奇に残るような生き物も含まれてるらしい。私的に言わせてもらうと、カーバンクルは伝説系だね。動物の聖獣は見た目が特異じゃないから、主な仕事は街中に潜入して情報集めするんだって。皆それぞれ役割があるんだね。
伝説系はパッと見て聖獣ってわかるから、見つかるとすごく騒がれるらしい。どう話を聞いても天使しか想像できない子もいるみたいだから、そりゃ見ただけでわかるわ、と納得した。
〈この世界では遥か昔から神の遣いとして、姿を現せば国を挙げて歓待される立場にあったんだよ〉
「え、そんなすごいこ、さらっとよこしてきたの、かみさま」
〈うん。神様にとってはただの小間使いだからね僕ら〉
「わあ……かみさまとにんげんの、きじゅんが、けたはずれぇ……」
こんな有能で
〈まあ、聖獣が現れるって事は、その国は神に祝福されているって認識をされてるからね〉
「にんしきって……」
〈聖獣からしたら、神様に頼まれたものを届けたり伝えたりしてるだけなのに
「すごい!」
国賓ってあれでしょ。海外の大統領が来た時にする扱いでしょ? 国にとってとても大切なお客様だから、賓客。必ずその扱いになるって、聖獣だけで国規模の扱い、って事だよね。そりゃ神の遣いだし、国賓以外ないかもしれないけど……豪華
首を
〈ふふ。うん、そうだね。毎回、滞在している間は騒がしかったよ。そして、いらないって言っても色んなものを押し付けられた〉
「おしつけられたって……」
カーバンクルは寂しそうな顔で皿を
〈僕が遣わされるのは、ただのお告げって事が多かった。たったそれだけだからすぐ帰ろうとしたのに、どの国の人も神とお近づきになりたいみたいで、歓迎の宴だとか、神への献上品ですって、ね。神嫁にいかがですか、なんて若い女の子を渡された時はさすがに逃げたよ〉
「う、うわぁ……」
どの世界でも変わらないんだなぁそういうの。
でも、そっか……苦労してきたんだなぁ、カーバンクル。
「さら、めいわくだった?」
〈ううん。僕と仲良くなりたいっていう、ルイの素直な気持ちが伝わってきて、とても嬉しかったよ。物を貰ってこんな気分になったのは初めてだ〉
緑の目をぐーっと細めたと思ったら、キラキラさせて……カーバンクルの気持ちが伝わるみたい。そっかぁ。嬉しかったかぁ。にへへ。
〈この皿は、僕とルイの友好の証なんだ〉
「うん」
〈大事にしたいな〉
「うん!」
私も! そう思うよ!
カーバンクルから受け取った皿をぎゅうっと抱きしめて、丁寧にアイテム袋に入れた。
「でも、カーバンクルが、せいじゅうだってバレたら、たいへんだね」
〈国全体が大騒ぎになるね。それに聖獣である僕が付き添ってるって知られた時点で、ルイは有無を言わさず勇者扱いだよ〉
「なにそれ、ぜったいバレちゃだめなやつ」
神様の遣いが
〈戦乱
「カーバンクル、いっしょに、いんきょしようね、すえながく」
間髪を
〈聖獣が世間に顔を出していたのは数百年も昔の話だし、僕もしばらく表立ってないから……名前は伝わってるかもしれないけど、姿までは伝わってないと思うんだよね。1ヵ月前に外を歩いて人に見られたけど、騒がれなかったし……まあ僕は獣系統の中でも目立たない容姿だからね〉
「どっちかっていうと、あいらしさがきわだつっていうか、ねえ……」
数百年。とんでもない数字が出てきたなぁ。さすが不老不死。
聖獣ってバレなかったってことは、パッと見で聖獣以外の何かだと思われてたってことだよ。ずばり、
「ようせいってことで、ごまかせそうだね」
この世界に妖精がいるっていうのはカーバンクルに確認済み。正しくは妖精族のうちの、草花や樹木、動物が長年を経て魔力を高めた結果、妖精化した生命体が世間一般で妖精って呼ばれてるらしいけど。カーバンクルの動物的な可愛さなら誤魔化せるんじゃないかな。
〈ダンジョンだから、冒険者に絶対会わないってわけじゃないものね。騒がれないためにも、妖精案はいいんじゃないかな〉
「でしょー! じゃあ、あとはなまえだね! カーバンクルのままじゃ、ぜったいバレちゃう!」
〈名前、か……〉
何か考えるように、カーバンクルが
〈不都合はないよ。呼び名付けたくらいで機嫌を損ねるほど、神様は狭量じゃないからね〉
ようするに懐が深いって事? 私が転生する時の声は、すごく
〈口悪いし、うっかりミスも出すけど、そうそう怒りはしないよ。神様は〉
そういえばカーバンクルや私が不手際とか、神様が悪いとか厨二とか散々言ってるのに、天罰的なのは何もないな。じゃあ、きっとそういう事なんだろう。神様見逃してくれてありがとー!!
「カーバンクルのなまえ、どんなのがいいのかなぁ。なにか、みょうあんはない?」
〈ふふ……ルイの好きに決めていいよ〉
「いいの!?」
これから呼ばれる名前だよ!? 私が決めちゃっていいの?
〈いいんだよ。ルイに決めてほしい〉
えええー。私センスないよ? 大丈夫?
〈相当変だったら指摘するから、何個か候補を出してみて〉
「んんー…………ラビーとか?」
まんまうさぎ……
〈うん却下〉
「ですよねー」
〈
考えてるよ! でもさ、一生連れ添う子に名付けるんだよ? あーでもないこーでもないと考えてたら、どれも変な感じに聞こえてさ。頭ぐるぐるして、結局出てきたのがうさぎ。見た目に寄ったわ……ごめん。
〈見た目とか性質から取るのはいい案だと思うけど、うさぎはやだよ。食材だもの〉
「あ、たべるんだ……」
そっか。うさぎを飼うっていうのは、平和で食が満たされてる所の発想だよね。うーん。なら、性質の方から取るかな。カーバンクルは守護の聖獣だから、そういう感じの。
「……ぼうえい……まもり……がーでぃあん? ごついな……ぷろてくしょん……ぷろてくと……テクト!」
プロテクトから取って、テクト! 歩いてる時テクテクっていうから、名前の由来を尋ねられた時に誤魔化しやすい! どうかな、テクト!
カーバンクルを見ると、
〈いいんじゃないかな。本当の意味を他人に悟らせない感じや、今のルイの見た目っぽくてぴったりな所も、いいと思う。語感も嫌いじゃない〉
「あ、そうか。わたしいま、ようじょだった」
〈いつ冒険者と会うかわからないからね。異世界人と気付かれないように、ちゃんと子どもらしくしなよ?〉
「はーい!」
ぶんっと右手を振り上げる。こんな感じ? 子どもと
〈うん、元気があってよろしい。それでいいと思うよ〉
「よーし! じゃあ、テクト! これからよろしくね!!」
〈こちらこそ、よろしくね。ルイ〉
こうして私達のダンジョン生活は始まったのである。
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