Step2-1 保護者と仲良くなりましょう

 人間怖いダンジョンに住む宣言をしたのはいいけど、じゃあどうやってここで暮らしていくのかって話だ。カーバンクルの傷つかない結界があるから安全は保障されたけど、おなかは膨れない。生活面の保障が必要だ。

 ここで出てくるのが、さっき見つけたハードカバー本である。いやほんと、すごいもの見つけちゃったよ。私の想像通りの機能を持っているなら、これはきっと使える! 生活の救世主になる!

 カーバンクルは心を読んで私の気が変わらないとわかったのか、素直に首を傾げた。

〈魔導書みたいだけど……僕にはどういうものかわからないな〉

「ほんしつを、みとおせるのに? わからないの?」

〈そうだね。僕の目なら魔導具の隅から隅まで、どういう魔導構成を彫られているのか、どのような効果が得られるのか、それらすべて読み取る事が出来るけれど、この魔導書に限っては無理みたいだ。使われてる文字がこの世界のものじゃないから理解が出来ないんだよ。細部に至るまで簡単なような複雑なような、そんな文字達で彫られてるから、本当に訳がわからない。これってルイの世界の言葉なの?〉

「せかいっていうか、くになんだけどね」

 ツタが絡むようなファンタジック調装飾の表紙に指を滑らせる。表紙にあるのは「カタログブック」の文字。

 この本が本当に魔導具で、アイテム袋みたいに不思議な力が働くなら。これは私の生活を助けてくれるお助けアイテムになる。

 ドキドキしながら、本を開く。カーバンクルは隣でのぞき見ていた。


 ──買い物をしますか? 残高確認をしますか?


 と、落ち着いた女性の声が頭の中に流れた。ふおお!! やっぱり、これはやっぱりっ、私の想像通りのシロモノ!?

 カタログと言えばギフトが付くよね、結婚式の引き出物とかに入ってるやつ! カタログの意味は売り品目を整理して書き並べたもの……つまりこれは、販売に関係する魔道具のはず。買い物するか聞かれちゃったし、ますます期待しちゃうよー!

 感動に震える私の隣で、カーバンクルの耳がぴくぴくと跳ねる。

〈ごめん、もう一回、閉じて開いてくれる?〉

「う、うん!」

 慌てて言われた通りにすると、同じように声が脳内に流れる。カーバンクルに話しかけられてるみたい。そのご本人は首を傾げてるんだけど。

〈不思議。僕の頭の中で聞いた時は全然意味がわからなかったのに、ルイの心を読んだら何て言ったか聞こえたよ。ルイがこの世界と、そっちの国、両方の言葉がわかるからかな?〉

「え、わたし、にほんご、しゃべってたんだけど……ちがってたの?」

〈転生した時、体はこちら仕様になるはずなんだ。そうじゃなきゃ魔導具も使えないだろうし……体がこの世界の言葉を、魂が元の世界の言葉を覚えてるから、両方の言葉が使えるんだと思う。勇者だって、召喚早々言葉が通じなかったら意味がないからね。召喚魔法の一部だと思うよ〉

 自動翻訳って事? 便利にできてるんだなぁ、召喚魔法。今回の召喚が邪法でも。不幸中の幸い、と言っていいのかな。

 開いたカタログブックのページには「あなたが望むものを、迅速にそろえます」とだけ、書かれていた。形が本なのに目次とかはない。検索を書き込む所もないし、あれかな、話しかけると対応してくれる感じ? 見た目は本で中身はスマホみたいな……質問したら返事くれるかな、これ。

 するっとカタログブックの紙面部分をでてみる。感触は上質な紙なのに、墨やインクの匂いはしない。視線を本から上げると、目の前に電子画面が浮かんでるように見える。ちょっと近未来的。画面に手を伸ばすと、ちゃんと触れた。

 私にはみ深い、スマホのようなディスプレイ。大きさ的にはタブレットかな。カーバンクルは〈透明な板が何で浮いてるんだろ?〉と首を傾げてるけど。

〈これは……勇者の遺産だねぇ〉

「うん」

 アイテム袋の元の持ち主……冒険者さんが勇者だった、ってわけじゃないだろう。それだったら、容量に制限があるアイテム袋に大量の野菜を入れて持ち歩くより、カタログブックとお金だけにした方が管理しやすい。偽装のためだとしても雑貨の量が多すぎる。

 きっと冒険者さんも何の魔導書だかわからなくて、拾ったのはいいけど持て余してたんじゃないかな。どうしようか考えあぐねて、アイテム袋に入れっぱなしにしてたとかそんな所だと推察する。この世界の言葉じゃない本なんて売れないだろうしね。

 とりあえず、使ってみよう。残高確認って事は、キャッシュやクレジットじゃなくてチャージ制って事だよね。残高どんだけあるんだろう。

「ざんだか、かくにんを」

 ──6570ダルあります。

「おお! けっこー、はいってた! ゆうしゃが、つかってたのかな? ダルって、おかねのたんい?」

〈うん。アイテム袋の中に、銅と銀と金の硬貨があったでしょ?〉

「まるいのと、はんぶんの?」

〈それがお金だね〉

 半分の硬貨は丸い硬貨よりひとけた下がった価格で数えて、


 半銅貨…10ダル

 銅貨……100ダル

 半銀貨…1000ダル

 銀貨……10000ダル

 半金貨…100000ダル

 金貨……1000000ダル


 っていう価値なんだって。

 丸い金貨すごいな。1枚で100万……そんなのテレビでしか見たことないよ。

 さっき出して敷布に置きっぱだった硬貨を見る。丸い金貨は1枚だけ。他は銀貨と銅貨がたくさんあった。すごいなぁ、冒険者さん。お金持ちだったんだ。ありがたーく使わせてもらいます! この魔導書で使えたらいいんだけど。

「ざんだかはどうやったらふやせるの?」

 ──硬貨か、売却するアイテムを本体へ載せてください。

「お、おお! チャージできる!」

 お金をチャージできるって事は、買い物ができるって事だよね!? 私でも大丈夫だよね!? よぉおおし!

〈チャージって、何で魔導書にめ技?〉

 力を溜めて特攻タイプのスキルあるのね。でもこれは違うんだなぁ。

「おかねを、このまどうしょに、ためとくことだよ。いれたぶんだけ、かいものができるんだ」

〈ふーん?〉

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