Step1-5 現状を理解しましょう

 勇者召喚っていうのはそもそも、〝本当に心の底から〟困っている人達が出来る、奇跡の魔法なんだそうだ。例えば、大国から攻め込まれてじゆうりんされてる弱小国とか。モンスターに滅ぼされそうになっている人類とか。天災レベル規模の脅威から逃れるために、追い詰められた人達が最後の希望として助けを求め、び出すのが勇者。そういう勇者は私達の世界で言う神隠しに遭う形で召喚され、様々なスキルや強化を神様から賜って、救世主になるらしい。

 本来は、勇者のみを召喚してこんとんとした世界を救世する。これが正攻法の勇者召喚。対して、邪法は大量のいけにえを伴う。助けを望む心を無理矢理引き出すそうだ。うえええ……その生贄にされた者達の絶望とえんが勇者の周りを巻き込み、そして勇者にとりいて強大な力をもたらしつつも、すべてを破滅へ導く。救世とは遠い結果になるが、一応、戦乱は終わるらしい……勇者がおもむいた土地は焦土と化すそうだけど。

 邪法だと巻き添えが出るのは、生贄にされた人達のおんねんなんだね。私自身は恨まれてないのか、チートスキルないけど……これって、なくてよかったんだ。

「かみさま、いけにえがどうとか、いってたなぁ……」

〈巻き添えになる人達が多くて、神様自ら選別して、転生の輪に入れなきゃいけなくなるからね。この世界の神とそっちの神との協議の結果、安全を保障する最低限の加護を付与する約束だから〉

「……バス、ゆうがただったから、たくさんひと、のってたとおもう」

 私は衝撃があった事以外覚えてないからわからないけど、他にも巻き込まれた人がいたんだ……

〈元の世界の人達がどれだけ無事かは僕には知るすべがないけど、今回巻き込まれて異常があったのは君だけだ。だから、他の人達はちゃんと転生できるよ〉

「それだけがすくいだね……」

 戦争が終わった後に転生するように気を遣ってもらったようだし、私には見分けがつかないので、巻き込まれた人が本当に幸せになれるかどうかはわからないけど。転生の流れにきちんと従っているなら安全な場所に生まれるらしい。次の人生が幸福である事を願うばかりだ。

 ただし、戦争がいつ終わるかはわからないけど。

〈この世界は今、大きな規模で戦争の真っ最中でね〉

 最初はモンスターと大国の争いだった。モンスターが大挙して押し寄せてきた大国は、辛くもモンスターを退けた。けど、立て直す間もなく前々から争っていた隣国が攻めてきて、劣勢になった大国の同盟国が手を貸せば、隣国の同盟国が邪魔をしてくる。で、二大勢力で争う形になったんだそうだ。それとは関係ない立場、中立を保とうとする国もあるけれど、国境あたりは小競り合いに巻き込まれてるみたい。

 それで勇者を喚んだのは二大勢力のどっちかな、って思ったらまさかの中立国だった。

「なんで!? むしろたいこくのほうが、せいこうほうで、ゆうしゃよびそうなのに!?」

〈そうだよねー。何で喚ばなかったんだろうね? 喚べなかったって可能性もあるけど、僕は聞いてない〉

「みたわけじゃないから、わからないね……」

 邪法で勇者召喚をしたのは宗教国家フォルフローゲン。この国の人には関わっちゃ駄目! って何度も言われた。どうも、私が会った正式な創造神様とは違う神様を奉っている上に、それがあんまりよろしくない神らしい。邪神って奴だね。その国の人達にとってはとても清廉で博愛にあふれた神なんだそうだけど、どんなさいな罪でも犯した時点で死刑宣告するような神のどこが博愛に溢れてるんですかねぇ。まだうつぷんが吐ききれない感じのカーバンクルを止めて、先を促す。この宗教国家が怖いのは十分わかった! カーバンクルがなんやかやであの神様を好きなのも十分すぎるくらいわかった!

 フォルフローゲンも小競り合いに巻き込まれてる。それを利用して、他の国をすべて攻め落として、あるいは懐柔して、自国の宗教を全世界に広めようと画策してるのが上層部なんだとか。漁夫の利狙いって……うわあ、ドン引き。

 私が巻き添え食った勇者召喚は思いっきり邪法。生贄使ってる事は機密事項だろうし、端から見れば勇者召喚に成功した、大国同士の争いに巻き込まれた〝あわれな〟国だ。勇者が召喚できたって事は、自分の国が他の国と戦うのは正当性がありますよー、っていう証明にもなるから民衆に受け入れられやすいと思ったのかな。

 つまり、今この世界にはそういう戦争したがりなやからがお上にたくさんいるというわけで。そして破滅の勇者の影響で死者が溢れかえるだろうと予測できるらしい。


「やだなにそれ、にんげんこわい」

〈まあ、幸いこのダンジョンがあるナヘルザークは中立国の中でも大きな国だ。冒険者の支持も高いし、敵対すれば軍だけじゃなく冒険者の相手もしなくちゃならない。そうなったら手痛いしっぺ返しを食らうだろうし、どの国も戦争を吹っ掛けには来ないんじゃないかな。ダンジョン内に戦争の余波が来るとは思えないね〉

「わー……そっかぁ……」

 外は危ないんだ……そっか……うん、よし、決めた!

「わたし、ダンジョンにすむよ」

〈……え?〉

「そとは、いくつ、いのちがあっても、たりなそうだから、ダンジョンにすみます!!」

 そう言って仁王立ちした私を、カーバンクルはぽかんと眺めていた。

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