Step1-4 現状を理解しましょう

 アイテム袋の中は、のぞき込んでみたけど真っ暗だった。どうやって中の物を出すんだろうと逆さにしてたら、カーバンクルが教えてくれた。

 袋に手を突っ込みながら、欲しいものを思い浮かべる。たったそれだけで手元にそのアイテムが来てつかませてくれるんだって。それを引っ張ると、スルッと出てくる。幼女でも出来たから、引き出すのに力はいらないんだね。そして戻すのもまたしかり。アイテム袋を片手で持って、もう片手で片付けたいアイテムに触るとシュッと消えて戻っていく。手品か、いやファンタジーだ。魔導具ってすごい。

 試しに手を突っ込んで、大きな敷く布!! と思い浮かべたら、手に何かがシュッと収まった。ひえっ、突然来るからちょっとビックリする。

 それを引き出して広げてみたら、どうやら休憩用の敷布だった。床に直接敷いて、地面の冷気を通さないようにする感じの。だから裏面は汚れてもほとんど弾くような素材で、多少土がついてた。

 使い込んでたんだなぁ、これ。表は直した部分が何ヵ所かある。冒険者さん、ありがとう。お陰で寒い思いはしなくてよさそう。

 とりあえず敷布を床に、丁寧に伸ばした。畳二畳分くらいかな? ここにどれだけのアイテムが並ぶんだろう。

〈何するの?〉

「ふくろのなかみを、ぜんぶだして、いますぐつかえそうなアイテムを、さがすの」

〈へー〉

 気の抜ける声とは裏腹に、カーバンクルは興味深げにこっちを見てる。私も気になるから、さっさと出してこ!

「とりあえず、せーかつよーひん、だね」

 出てきたのはカセットコンロっぽい道具となべ二つ、調理用具一式と水や野菜や果物。大きなおわんと、フォークとスプーン。冒険者なら干し肉とかありそうなのにまったくないなと思ったら〈現地調達するんじゃない?〉と聖獣のお言葉。そういえば隣にいるのは通常のミノタウロスより大きくて凶暴な、グランミノタウロスだっけ……ぎゅ、牛肉に、なるのかな……うわぁ。

 次に出たのがテント、寝袋、数着の着替えと手拭い。下着は男物だったけど、着替えがピンクだったから、正直生前の冒険者さんがどっちの性別なのかは判断しかねる。寝袋の匂い? 魔法でもかけてるのか、まっさら新品の匂いがするからこれでも判別できない。使い込んだ感じはあるのに不思議な感じ。

 さて、ここまでで私は疑問に思った事がある。

「これ、ひとりぶんしか、ないけど……あぶないダンジョンに、ひとりではいる、ぼうけんしゃっているの?」

〈いない、とは言い切れないね。戦闘スタイルによっては一人の方が強い、っていう冒険者もいるみたいだし。でも、基本的にダンジョンってパーティで攻略するものだよ。最低でも三人だね〉

「かなーり、つよかったのかな? このふくろの、まえのもちぬし」

〈かもしれないね〉

 仲間がいたのなら、アイテム袋は持ってくだろうし。かさ張らない・重たくない・高価な三点魔導具だ。持ち帰らないわけがない。

 どんな人だったんだろう。少し考えてから、首を振った。これから道具を使うたびに感傷に浸ってたら大変だ。これからあなたののこしたものをたくさん使わせてもらいます。ありがとうございます!……うん!

 よし! 切り替えるぞー!!



 結局、敷布じゃ足りなくてテントの中にも広げる事になった。あの後下級ポーションや解毒薬とか医療道具、頑丈そうなロープ、簡易作業台、触ったらスッパリ切れそうな剣や投げナイフとか武器防具諸々、ざらざらした紙と羽根ペンインクセット、金銀銅の硬貨、などなど。私が背負ってリュックにできるくらいの袋から、信じられないほどたくさん出てきた。魔導具って半端ない。

 その中で一番驚いたのは、日本語表記のハードカバー本が出てきた事だ。カーバンクルに見せたら首をかしげて〈難解な暗号かい?〉って言ってたから、日本語がこの世界にない言葉だって事はわかった。

「ねえ、わたしと、おなじせかいのひとが、むかし、きたことある?」

〈僕は詳しく知らないけど、勇者召喚は創生時代から今までの間に何度もあったからね。その中の誰かが、君と同じ世界から来ていたっておかしくないよ〉

「なるほどねー……って、ゆーしゃしょうかん?」

 また聞いた事のないワードが……って顔をしたら、カーバンクルが半眼でこっちを見てきた。

〈僕、さっき言ったけどなぁ。勇者召喚に巻き込まれた君がりんの輪から外れて可哀かわいそうな事になってるから、僕が来たって〉

 まあ神様の不手際だったんだけどね。

 と、肩を落とすカーバンクル。いやいや、さっきって、あれかな。パニック状態だった時? そんなのわかんないよ、頭の中ぐるぐる回ってたもん!! てか情報量多すぎてパンクしてたって!!

〈じゃあどうせだから詳しく、もう一度、丁寧に、説明しておこうか。この世界を取り巻いてる現状を含めてね〉

「う、うっす!」

 丁寧に説明してくれるんだね。さすがカーバンクル! 優しい!!

 敷布の上に正座した私を、調子がいいなぁと言いたげな目でちらっと見て、閉じた。

 そして教えられたのは、勇者召喚の光と影だった。



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