Step1-2 現状を理解しましょう
鏡には、小さい頃の私が映っていた! アルバムで見た姿だよこれ!?
〈だいたい5歳くらいらしいよ? 君が輪廻の輪から飛び出なければ、こんな事にはならなかったんだけどね〉
異世界転生って普通、大人のまんまなるんじゃないの!?
わー!? と頭を抱える私に、冷静に突っ込むカーバンクル。そういえばさっき小さい体に大きな魂って言ってたもんね!! 私のまんま転生したわけじゃないんだ!! もう! もうもう! 輪廻って何!? 夢にも出てきたぞそのワード!!
〈輪廻って言うのは、死した魂が生前の記憶をすべて
「なんてこったい!」
って事はさっきのは夢じゃなかったの!? うわー……あんな紐なしバンジー落下もどき体験、本当にあったんだね。
でも私、その流れ? って言うものから出ようなんて思ってなかったよ。目を開けようとは思ったけど。
と伝えると、カーバンクルは頭を抱えた。
〈転生の流れに入ってる時に意識があるのが、もう問題だよね〉
「えー、そんなのどうしたらいいの。わたし、めはとじてたけど、ずっとおきてたもん。おちるかんじがするまで」
〈じゃあやっぱり神様の不手際じゃないか。ちゃんと寝てるかどうか確認してない!〉
「かみさまって、だれ?」
〈会った事ない? 輪廻に入れる前に選別したって聞いたけど。軽薄な声の人だよ〉
軽薄な声で、輪廻に入れるって、それ間違いない! 厨二病の奴だ!!
「あああ!! そいつ!! わたしが、じこにあったのに、へんなこと、いってたひと!!」
〈まあ変な人ってのは否定しないけど。でも納得した。ルイが全面的に悪い訳じゃないよ。本来なら、死んでから転生の流れに乗って自我が目覚めるまで、等しく命は意識がない状態でなければならないんだ〉
そりゃ、自分は死んだのかーって思いながら転生してく私みたいな奴がたくさんいたら怖いわ。
〈それに記憶も綺麗さっぱりなくなるからね。意識を保ちようがないんだよ。で、意識があるまま転生の流れに乗ると、
「何で意識があるとダメなの?」
〈転生した後すぐ自我が芽生えちゃうんだよ。世間では、物心つくって言うんだっけ? 例えばだけど……鳥に転生したら、卵の中の最初の小さな細胞から自意識があるって事になるかな〉
「それ、いしきあったら、だめなやつ」
もしその状態で親から見放されたりしたら……絶望感にうちひしがれながら卵自体が死ぬのを待つだけになるんだろう。うわ、無理、怖い。
なるほどねぇ。それは転生の流れも私を弾くわ。
〈で、どうして君がこんな地下迷宮にいるかっていうと。転生の流れから弾かれた君が、突然この安全地帯に生まれてしまったからだよ。流れた分だけの時間が巻き戻った体でね〉
「……ん?」
また新しいパワーワードが飛び出してきたぞぉ。
「ちかめいきゅう……って」
〈俗にダンジョンって呼ばれてる施設だね。モンスターがいたり罠があったり、財宝があるよ。人がよく潜ってるね〉
「……あんぜんちたい?」
〈ダンジョン内にあるんだよ。モンスターがどうやっても入れない絶対領域っていうのが。それがこの部屋〉
「……モンスター、いるの?」
〈いるよ。一番近いのはこの部屋の壁を挟んだ隣、グランミノタウルスかな〉
「……いせかい、てんせいの、おやくそくで、チート……えっと、ムテキな、のうりょくとかは……?」
〈
カーバンクルに首を横に振られた。あ、ないんですね。わかりました。うん、うん……あはは……そうかぁ……。
「これって、しんだも、どーぜんだぁああ!! てんせーして、すぐしぬとか、やだぁああ!!」
せめて! せめて10代だったら逃げ足くらいマシだったのに!! あんな体感ちょーっと流れただけで5歳まで若返るとか!! 転生の流れ半端ないわ、さすが神の領分ってやつっすか!! っていうか異世界転生なんだからチート能力の一つや二つ付けてくれればいいのに!! ゲームみたいに!! ラノベみたいに!! こんな誰もいないところでたった一人寂しく死ぬなんて!! やーだー!!
わんわんと打ちひしがれる私を前に、カーバンクルは落ち着いてた。
〈大丈夫だよ。僕がいれば、少なくともモンスターやダンジョンの
「へ?」
何で確信を持ったセリフ? 何かすごい能力あるの? カーバンクルだもんねありそう。っていうか
〈わざわざこんな説明するためだけに僕がここにいると思ったの?〉
「うん」
何の理解もできないまま異世界で死ぬとか憐れな人間だな、って思われたのかなって。
〈まあこの世界の説明役でもあるけど。一応、神様の世界の人間が勇者召喚をして君を巻き込んだからね。多少なりとも、便宜を図ろうとしたみたいだよ? 僕を遣わせたんだからね〉
「べんぎ……?」
すみませんぬか喜びはしたくないから、もうちょっと直接的に教えてくれませんかね。
〈君が君の人生をきちんとまっとうするまで、僕がずっと付き合ってあげるって事〉
「……カーバンクルが?」
〈僕は守護の獣だ。君が傷つかないよう加護を与え、結界を張る事なんて、まったく手間じゃないんだよ〉
「……ずっと、いっしょにいてくれるの?」
〈うん〉
ぽんっと胸に手を当てるカーバンクル。任せてよ、と言いたげな
あ、やばい。これは泣く。そう思った時にはもう、涙がぼたぼた落ちてきた。私を見ていたカーバンクルが体全体を跳ねさせる。
「わああああん!」
〈わ、わ、なんで泣くの! もしかして攻撃特化の聖獣の方がよかった!? 今からでも替えられるよ!!〉
「やだああああ!!」
〈え!? やだ!? 困ったなぁ、僕の能力じゃ駄目だったんだね。神様に言ってくるよ〉
「やああぁだぁああ!!」
〈ええ!? おかしいなぁ、何が嫌なの?〉
焦ってるのか、わたわた手を振ってるカーバンクルの手を取る。テレパスあるのに、人の心も見通すのに、何で私の気持ちわかんないの。
「カーバンクルがいいもん! ひとりがいやだったから、いっしょにいてくれるって、いってもらえて、うれしかっただけだもん!! かってに、なみだが、でるんだよぉおお!!」
〈あ、え、う、うん!? 僕でいいの? いいんだね!?〉
「ほかはやだぁあああ!!」
やだよ、どっか行かないでよ。私は、混乱する私に根気強く、ずっと穏やかに話しかけてくれた君がいいんだ。
優しい君に、
〈ああ、わかった、わかったよ! 伝わったから! もう十分、君の気持ちを理解できたから! 泣き
「ないたの、ひさしぶり、だからぁあ! とめかたわすれたぁああ!!」
〈子どもはよく泣くって言うし、体に心が引っ張られてるのかな……? しょうがないなぁ。思う存分、泣きなよ〉
「うわあああああん!!」
自分の手を抱き込んでうずくまる私の背を、カーバンクルはぽんぽんと軽く
死んじゃったって! 私死んだって! まだやりたいことあったのに!! 全部できない!! 知らない土地で、今までの常識が通用しないところで、子どもで、生きてくなんて!! 何で!! 何で!! 理不尽だよ!! 事故なんて、私遭いたくて遭ったわけじゃないのに!! ひどい!!
色んな感情が頭の中をぐるぐる回って、荒ぶる心のまま私は泣き続けた。
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